銘革とよばれる、上質な革があります。たとえば、ブッテーロやホーウィン社シェルコードバンですね。
本ページでは200以上の革製品、30種類以上の革を使ってきた経験から、世界中で愛用される上質な革についての特徴、メリット・デメリットをわかりやすく解説します。
見て、触って、使ってみての本音の解説です。革製品を選ぶときの参考にしてみてください。
目次
- 1 銘革とはなにか?
- 2 バダラッシカルロ社
- 3 ワルピエ社
- 4 イルポンテ(Conceria Il Ponte)
- 5 ブルターニャ社(CONCERIA LA BRETAGNA)
- 6 モンタナ社
- 7 ロスティバーレ社(Lo Stivale)
- 8 テンペスティ社
- 9 ラ・ペルラ・アズーラ社
- 10 オットチェント
- 11 ぺリンガー社
- 12 アルラン社(Alran)
- 13 ジュリアン社(Megisserie Jullien)
- 14 HAAS社
- 15 ウィケット&クレイグ社(Wickett&Craig)
- 16 マシュア社
- 17 ベイカー社
- 18 新喜皮革(しんきひかく)
- 19 レーデルオガワ社
- 20 ホーウィン社
- 21 ROCADO社
- 22 栃木レザー
- 23 坂本商店
- 24 あとがき
銘革とはなにか?
ピックアップ条件
本ページでは以下に該当する革を「銘革」と定義します。
- ユニークな特徴があること
- 日本の革工房で採用されていること
ユニークな特徴
たとえば、劇的なエイジングを楽しめる革(写真はストラッチョ ブッテーロ)
たとえば、美しいシボの革。このように、ユニークな革をピックアップします。
日本の革工房が使う革
日本のレザーブランドは、特徴のある革を厳選しています。たとえば、エムピウはワルピエ社のブッテーロや新喜皮革社のコードバンなど「美しくエイジングする革」を採用しています。
日本のレザーブランドは「日本人の高い品質基準」に応えるため、使う革にこだわっています。そこで本ページでは、日本の革工房で採用される革をピックアップします。
補足
詳しく知りたい方のために、それぞれの革を詳細に解説したページや、レビューページをリンクしておきます。リンク先では、より多くの写真、革のエイジングなども掲載していますので、参考にしてみてください。
バダラッシカルロ社
イタリア トスカーナ州に居を構える、老舗タンナーです。革の種類やカラーラインナップが豊富。
タンニンなめしかつ染料仕上げ。さらに牛脂をたっぷりと浸透させる、トスカーナ伝統の「ヴァケッタ製法」で作られています。
色・ツヤがスピーディーに、劇的に変化するエイジングが最大の魅力で、もっともメジャーなイタリアレザーだと思います。
ミネルバリスシオ
バダラッシカルロ社といえば、やはりミネルバシリーズは外せない。
こちらは、ミネルバリスシオ。スムースな表情が特徴のオイルレザーです。
新品のときはスムースで、マットな表情で、面白みを感じないかもしれません。1ヶ月ほど使うと、しっとりとした質感に変わります。同時にツヤが現れ、色の変化もハッキリと分かります。
ミネルバボックスと、ほぼ同じ質感、触り心地。柔らかな質感で、色・ツヤが劇的に変化するエイジングを楽しめます。ただ、他の革と比べてエイジングがかなり早いです(1ヶ月で体感できるくらい)。じっくりと変化を味わいたいなら避けたほうがいいかもしれません。
参考
ミネルバボックス
ミネルバリスシオに、「もみ加工」を施すことで、シボのある表情に仕上げた革です。
型押しではないため、部位によってもシボのつき方が違います。ギュッとシボが密集したところがあれば、スムースな部位もあります。
ベースは、ミネルバリスシオと同じなので、エイジング具合も同じ。色ツヤの変化はもちろん、柔らかい質感のためクタッとしたヤレ感も味わえます。
新品。
半年後。パリッとした質感の革(ブッテーロやブライドルレザー)と比べると、柔らかくなりやすく、クセがついてカタチも変わります。
1年後の動画です。
参考
チグリ
チグリもシボが入った革です。取り扱う工房はほとんどありませんね(LASTCROPSさんくらいかな)。
油分がしっかりと入り、シットリとしています。ミネルバ・ボックス同様、色・ツヤが変化するエイジングを楽しめます。
プエブロ
ミネルバリスシオに、起毛加工した革です。
微細に乱舞する模様は、毛羽立った繊維。ピョコンと飛び出しているわけではなくて、表面に張り付いています。ヌバックやヴェロアなどのように均一に起毛させたわけではなく、ランダムな毛羽立ち。
毛羽立ちのある部分は、触れるとザラッとしています。まるで和紙のような質感。
プエブロも、エイジングで、ガラリと質感が変わります。
オイルコーティングされることで、ツヤが生まれ、つるりとした質感に変わってきます。
参考
ナッパネビア
珍しい革です。リスシオのようにスムースなタイプで、表面に薄っすらと霧がかかっています。
使っているうちに、霧が晴れるように薄まっていき、ベースカラーが顔をだします。
この霧が晴れたあとも、変化が楽しめます。ミネルバシリーズ同様、オイルを含んでいるためツヤが現れてきます。2度の変化を楽しめる革なのです。
以下の動画では、1年以上つかったナッパネビアの表情をご覧いただけます。
ワルピエ社
イタリアのタンナー。小規模なためか生産量が少なく、取り扱っている工房も少ないですね。
「エイジングを楽しめる」とても優秀な革を作っています。
ブッテーロ
スムースでハリのある牛革です。
新品のときはマットでツヤがない個体が多い印象。はじめて見たときには、上質さを感じられないかもしれません。
しかし、マットな表情は最初だけ。使い込むことで少しずつ変化します。
表情の変化が顕著ですね。光の膜でコーティングされるようにツヤが現れるため、奥行きのある透明感を楽しめます。
様々なカラーがラインナップされています。個人的にはBlueがお気に入り。もともとダークネイビーの深みのある青なのだけど、さらに深い色味に変わっていく変化が楽しめます。
先ほどご紹介したミネルバより、エイジングスピードはゆっくり。数年かけて少しずつ変化を楽しみたい人にオススメです。
1400時間ほど触ったブッテーロです。ツヤツヤです。
参考
マレンマ
マレンマは、ブッテーロの2倍、オイルを浸透させた革です。
ただ、新品のときはマットな質感。
マレンマもまた、変化していきます。
愛用しているカラーがブラウンだから色の変化は控えめなのだけど、ツヤの出が凄まじい。
オイルレザーは革の深部にオイルが浸透しているため、表面が乾拭きされたり、革が圧迫されることでオイルが少しずつ表面ににじみ出てきます。
マレンマの場合、浸透している油分がズバ抜けているため、表情のテリ感も段違いです。
ギラリと光る光沢感でいうと、コードバン以上だと思います。ただ、コードバンよりもハリ感は控えめで、キズつきやすい。無傷のまま育てるのは難しいです。
マレンマに限らず、染料仕上げのオイルレザーは傷つきやすいのだけど、キズを揉み込んであげると、染料とオイルが移動して傷が目立たなくなります。
もちろん、そんなケアをしなくても、普通に使うことで目立たなくなりますから、ガシガシ使って変化を楽しんでほしいですね。私の場合はバックパックに放り入れて、歩き回ったりしているので、常にキズが絶えない。けれども、付いたキズが少しずつ変化していく様もアジだと思うわけです。
日本で流通するカラーは、ブラック、ブラウンのみだと思います。
どちらも濃色のため、ミネルバなどのビビッドな革と比べると色の変化は控えめです。ツヤの変化を楽しみたい人にオススメです。
参考
ドラーロ
ブッテーロに「型押し」した革です。「シュリー」と比べるとシボが大き目です。凹凸感があり、凹と凸の部分で濃淡があります。そこそこワイルドな印象。ブッテーロの繊細な表情とは、まったく異なります。
凹凸の度合いもそこそこあります。指で触れるとシボをハッキリと感じ取れますね。
ブッテーロ同様、色・ツヤの変化を楽しめます。
参考
イルポンテ(Conceria Il Ponte)
イタリア トスカーナ地域のタンナーです。動物性グリスやオイルを使った、タンニン革をラインナップしています。
茶系の濃い色でも、均等な色味ではなく濃淡があります。光沢と透明感が楽しめるのは、アニリン仕上げの革だから。
マヤ
表面をスクラッチ加工された表情が特徴。
ショルダー部ですが、割としなやかなです。プエブロと似たような手触り、質感です。香りは全然違いますね。プエブロほどきつくない。
タンニンなめし、染料仕上げの革で、色・ツヤが変化するエイジングを楽しめます。
なお、マヤベリーも流通しています。マヤベリーの「ベリー」とはお腹のことを指します。お腹の革は繊維が荒く、伸びやすいため、用途が限られます。品質や耐久性にこだわる場合は、一般的には使わない部位です。通常のマヤよりも安価で販売されています。
ブルターニャ社(CONCERIA LA BRETAGNA)
アリゾナ
シボのある表情が特徴です。シュリンクや型押しではないため、部位によってシボの度合い、表情が異なります。
ショルダー部が使われています。油分が多く、しなやかです。
表情はマットですが、新品のときからオイリーな感じ。とはいえエルバマットほどのオイリーさはありません。
タンニンなめし、染料仕上げの革で、色・ツヤが変化するエイジングを楽しめます。
モンタナ社
リオ
スムースタイプの革。きめ細やかで、マットな表情です。
牛革のショルダー部を使っており、適度なハリがあります。
タンニンなめし、染料仕上げの革で、色・ツヤが変化するエイジングを楽しめます。
ロスティバーレ社(Lo Stivale)
ブルガノ
スムースタイプの革。牛のショルダーが使われており、硬めです。ブッテーロやマイネよりはハリは控えめ。オイルがたっぷり含まれた革で、しなやかです。
タンニンなめし、染料仕上げの革で、色・ツヤが変化するエイジングを楽しめます。
ネブラスカ
ブルガロにシボ加工した革です。
個体差があるのかもしれませんが、表面はちょっと艶がありますね。シボの凸部に最初からツヤが出るように加工がされているのかもしれません。
タンニンなめし、染料仕上げの革で、色・ツヤが変化するエイジングを楽しめます。
参考
テンペスティ社
イタリア トスカーナ地方のタンナーです。
マイネ
牛のショルダー部を使った革。同社のエルバマットと比べると、ハリ・コシが強いです。
油分を含んでいますが、サラリとした手触りで、オイルレザーっぽくない。紙のような手触りで好みが分かれるかもしれません。なお、使い込むことでツヤが出てくるとオイルレザー特有の手に馴染む手触りに変化します。
50色以上ものカラーがラインナップされています。タンニン革としてはもっとも色数が多いです。そして、他のタンニン革にはない、パステルカラーもラインナップしているのがマイネの特徴ですね。
タンニンなめし、染料仕上げの革で、色・ツヤが変化するエイジングを楽しめます。
シビラ
マイネの表面にワックス加工を施した革です。うっすらと白い表情が特徴ですね。サラリとした質感です。ちょっと粉っぽく感じますね。
マイネ同様、ハリ・コシがあります。
表面のワックスは少しずつ取れて、ツヤが出る変化。そして、革の色の変化も楽しめる革です。
なお、ブライドルレザーと比べるとワックスは落ちにくいです。2ヶ月ポケットに入れて持ち歩いていても完全にはワックスが落ちませんでした。
エルバマット
牛のバット部を使ったオイルレザー。イタリアンレザーの醍醐味である色合いを堪能できます。ちなみに、マイネのほうがカラーラインナップは多いですね。
マイネと比べるとオイルの保有量が多く、新品のときからすごくオイリーでしっとりとした質感(クロムエクセルほどではないですが)。
裏面は、表面とほぼ同じ色あいです。革の芯まで染料を浸透させた証です。触れるとシットリとした質感。オイルもたっぷりと含まれているのがわかります。ただ、油分が多すぎると感じる人もいるでしょう。好みが分かれるかもしれません。
柔らかく、曲がりやすい。ブッテーロなどのハリのある革が好きな人には合わないでしょう。
エルバマットの表情を毛羽立たせたのが、TEXSASシリーズ。
使っているうちに、起毛感が無くなり、スムースになっていきます。色あいだけでなく、質感の変化も楽しむことができます。
参考
SYRINX HITOE長財布のレビュー
SYRINX HITOE FOLDのレビュー
イビザ
オイルの保有量が多い革です。
革を曲げると色が変化する「プルアップ」が顕著です。油分が表面をコーティングしているためか、新品のときから光沢がありますね。
タンニンなめし、染料仕上げの革で、色・ツヤが変化するエイジングを楽しめます。
ラ・ペルラ・アズーラ社
イタリア、トスカーナ州サンタクローチェに居を構えるタンナー。
1967年創業の老舗タンナーです。
イタリアタンニン鞣し協会に所属し、化学薬品を使わず100%植物タンニンでなめした革を作り続けています。
アラスカ
凹凸と白のリミックスが特徴的な革です。
白い色合いは「ロウ」。表面を薄っすらと蝋引きすることで革の色合いを隠しているのです。
非常になめらかな質感は、ロウがなせる技。しっとり感が飛び抜けています。ロウソクを触ったときの質感をイメージしてもらえれば間違いありません。
このロウは少しずつ薄まっていくため、革のベースカラーが少しずつ現れてきます。雪が溶けて、土が見えてくる感じですね。
強くこするとロウ成分が取れるので、エイジングを早めたいなら乾拭きすれば、すぐに表情が激変する。でもアラスカの魅力は、少しずつの変化だと思うので、ふつうに使うのがおススメ。
参考
オットチェント
イタリアのタンナーさんです。
バケッタ800
オットチェント社の代表的なシボ革。牛のショルダー部の革。シボ加工されており、ほどよいしなやかさ。伸縮性のある(粘りのある)革です。
触れるとわずかに油分を感じます。ロット差もありますが、新品のときからミネルバよりはオイリーな感じ。
型押しによる加工ではないため、部位によってシボの入り方が異なります。
タンニンなめし、染料仕上げの革で、色・ツヤが変化するエイジングを楽しめます。
ぺリンガー社
シュランケンカーフ
微細なシボが目を引く、美しい革です。
ふくよかな表情もシュランケンカーフの魅力です。見た目のとおり、やわかかく、もっちりとしています。と同時に、革ならではのハリも持ち合わせる独特の質感です。
別名、ドイツ シュリンク。
シュリンク(Shrink)とは「縮み」という意味で、薬剤によって革をギュッと縮めてシボを生み出しています。
微細な凹凸は、揉み加工や、型押しレザーでも同じようにみえるかもしれません。ただ、それらの場合は革に「型押し」で凹凸をつけているだけなのです。
シュリンク加工は「革の繊維そのもの」が凝縮しているため、極めて高い弾力があります。ちなみにシュランケンカーフが高価なのは革を縮めているからとのこと。面積当たりの単価が高くなってしまうのです。
色ツヤの変化するエイジングはほとんど楽しめません。これは、好みが分かれるところでしょう。
新品のときの質感、色合いを、ずっと長く楽しみたい。
シュランケンカーフは、その要望に応えてくれる革なのです。
シュランケンカーフは、染料と顔料のハイブリッドで染め上げているそう。タンニンなめしの革では再現できない、ビビッドな色あいが特徴ですね。カラーパターンも豊富で独特です。
(画像は、WILDSWANS公式サイトから引用)
女性ウケがいいのは、世界のトップメゾンが採用している革だからかもしれません。ふくよかで高級感もあるため、男女ともに使える革だと思います。
アルラン社(Alran)
100年以上の歴史を誇るフランスのタンナーです。
シュリー
アルラン社の代表作、シュリー(シェーブルと言われることも)。
手揉みで作り出した繊細なシボが美しい。革にはそれぞれ特徴があって、好みが分かれるところですが、シュリーは万人におすすめできます。特にこだわりがなければ、シュリーを選んで良いかなと思います。トップメゾンでも採用されていますね。
厚みは0.9〜1.2mmほどと、薄いです。山羊革に、やわからなイメージを持たれるかもしれませんが、ハリがあります。
色・ツヤがほとんど変化しないので、新品の時の表情を長く楽しみたい方におすすめの革です。エイジングを楽しみたい人には向かないかと思います。
高級とされる牛革(ブッテーロやミネルバ)よりも高価です。
100種類以上のカラーがラインナップされています。お気に入りの色がきっと見つかるはずです。
参考
ジュリアン社(Megisserie Jullien)
こちらもフランスの老舗タンナーです。山羊革で有名。アルラン社のライバルですね。
やわらかな光沢のある山羊の革。モチっとした質感です。
2mmほどの厚みがあります。
アルラン社のシュリーよりシボが大きいです。好みにもよりますが、財布やキーケースなどの小物ではシボが大きい印象です。シュリーの方が繊細な感じがします。
こちらもシュリー同様、非常に高価です。トップメゾンでも使われています。
HAAS社
フランスのタンナーです。
名だたるメゾンへ供給しているだけあって、とても高価な革ばかり。
バレニア
牛革のショルダーです。なめらかでシボのないスムースレザーです。マットな質感で、光沢は控えめ。さらりとした手触りです。
タンニンとクロムの混合なめしの革で、ハリ・コシがあります。
メゾンに供給される革としては珍しく、色が濃くなりツヤが出てくるエイジングを楽しめます。変化スピードはミネルバよりもゆっくりです。
ウィケット&クレイグ社(Wickett&Craig)
創業1867年。100年以上の歴史をもつ、世界有数の老舗タンナー。
今はアメリカのペンシルバニア州に拠点があるそうです。
イングリッシュブライドル
ある意味、ブライドルレザーらしくない革です。
ブライドルレザーの多くは、その表面にブルームと呼ばれるロウが浮き出ていて、これが「ブライドルレザーのウリ」です。
一方、イングリッシュブライドルには、ブルームが出ていません。
また、エイジングによる色の変化を楽しめるのも、イングリッシュブライドルの魅力です。
一般的なブライドルレザーは、ブルームが薄まっていくことで、カッチリとした光沢のある表情が見えてくるわけで、色ツヤの変化は控えめなのです。
一方、イングリッシュブライドルは、しっかりと変化する。(写真は、WILDSWANS公式サイトより引用)
参考
マシュア社
ベルギーに居を構えるタンナーです。
サドルプルアップ
光沢と迫力、カッチリとしたハリ感を堪能できる革です。
スッと手に馴染むオイルを含んだ手触りです。ギュイギュイと革の鳴く音も良い。触れると「上質な革」であることが分かります。
スムースに見える表情は、微細なシボがあります。だから、少し暗い空間で光があたったときが一番美しい。
繊維密度がギュッとつまった革で、ハリ・コシが非常に強い。だから、小さなアイテムでも所有する満足感が高いのです。
エイジングによる色の変化も楽しむことができます。
ただし、ミネルバやエルバマットよりもずっと時間がかかります。
光沢の生まれる、独特のエイジングは、サドルプルアップでしか楽しめないからかもしれません。
オーソドックスな革のため、面白みを感じないかもしれません。コードバンやクロコなど、際立った特徴のある革に浮気しがちなのだけど、なぜかサドルプルアップをまたチョイスしてしまう。不思議な魅力のある革です。
参考
ルガト
革の「トラ」と呼ばれる模様を楽しめるのが特徴。一般的な革では部分的にトラが出ることはあります。ルガトのように「トラ」を売りにするような表情のものは殆どありません。
染料仕上げの革のため、ロットによって濃淡が異なります。濃いめでダークトーンの色あいでも、光を受けると透明感がぐっと出て、魅力的な表情を見せてくれます。
つるりとした手触りのスムースレザーです。
ツヤ、透明感とトラが相まった表情を楽しめるのがルガトの特徴と言えます。オイルを含んだタンニン革のため、色・艶が変化するエイジングも楽しめます。
ミネルバのようなやわらかな革ではありません。牛の肩を使った、ハリ・コシが比較的強い革です。カッチリとした硬さがお好みの方におすすめ。
ベイカー社
イギリスに居をかまえる、1860年創業の老舗タンナーです。
フルグレインブライドルレザー
フルグレインブライドルレザーは、伝統的ななめし材オークバークが使われていて、より長い時間をかけて作られています。ベイカー社が言うには、より強度に優れるそうです。
ほぼすべての革は、表面「銀面(ぎんめん)」を削って仕上げています。天然素材である皮の表面にはキズや凹凸があるため、削って「均した」方が、オイルや染料が浸透しやすくなります。つまり、「キレイな表情」に仕上がりやすいのです。革を作る時間も短縮できるので、タンナーからすると生産効率が良いのですよね。
一方「フルグレイン」とは、銀面を削らずに仕上げる製法のこと。ここに、ベイカー社秘伝のオイルやグリースを使うことで仕上げています。
フルグレインのブライドルレザーも、部位(ショルダー、バットなど)によって展開されています。より強度があるのがバットとのこと。ただ、(ロット差)もあるのでしょうが、ブッテーロの方が硬いかなと感じます。しなやかでありつつ、ハリもあるのがベイカー社の良いところかなと思います。
表面のブルームがとても力強い。使い込むことで色・ツヤが変化します。
醤油のような独特な香りがするのは、数ヶ月でおさまります。香りは好みが分かれるかもしれません。
参考
新喜皮革(しんきひかく)
姫路市に居を構える日本のタンナーです。
原皮から上質なコードバンを作り出すことができる、世界有数のタンナーのひとつ。
新喜皮革 コードバン
新喜皮革の代表作といえば、やはり「コードバン」。世界中の革工房で採用される、日本が世界に誇る革です。
カッチリとしたハリと、スムースな表情が特徴です。
新喜皮革のコードバンは、さまざまな「仕上げ」の種類があり、それぞれ見た目が違います。はじめから光沢が増すようにコーティングしたもの。こちらはオイルコードバン。
光沢のない、マットなもの。
それから、水やキズに強い、顔料仕上げのコードバンもあります。ただし、顔料仕上げは色・ツヤの変化を楽しむことはできません。主にランドセルなどに使われます。
マットなコードバンは、新品のときは面白みを感じませんでした。「なぜこれで高価なの?」と疑問を感じるかもしれまえsん。
けれど、使い込むことでヌラリとした光沢をまとう。「コードバンのイメージ」に変わっていくエイジングを楽しむことができます。個人的には、マットなコードバンの方が「育てがい」があって楽しいと思います。
デメリットは、高価な理由もあって「ラフに扱いにくいこと」。水シミができやすいし、スムースだからキズが目立ちやすい。手で触れると、「曇った表情」になることもある。これがNGなら、コードバンは避けた方がよいでしょう。
キズもシミもつく。それでも長く使ったコードバンは、独特の雰囲気を身にまといます。このヤレ感もまた、コードバンの醍醐味なのです。
参考
レーデルオガワ社
レーデルオガワは、コードバンの仕上げ(染色や油分の追加、艶出しなど)を行うタンナーさんです。
コードバン
「新喜皮革」社から仕入れたコードバンを、レーデルオガワ社のレシピによって仕上げています。
後述するホーウィン社のコードバンより、均整な表情です。新品のときからツヤと透明感を楽しめます。また、ざらつきも少ないです。言い換えると最初から完成されすぎていると感じるかもしれません。ここは好みが分かれるかな。
淡い色の新喜皮革コードバンは、光に当てると濃淡が見える。部屋の明るさによって表情がガラリと変わる。これがまた良いんです。
染料仕上げ、タンニンなめしの革ですので、使うことで色・ツヤが変化していくエイジングを堪能できます。
なお、必ず濃くなるとは言えません。使用環境によっては色が抜けていくこともあります。
また、カタチも変わります。カードやコインを入れると立体的なカタチに変わってしまうのですが、そこに光があたるとなんとも言えない表情を見せて楽しませてくれます。
レビュー:クレバレスコ コンパクトマルチウォレット
ホーウィン社
革マニアで知らない人はいない。それくらい有名なアメリカのタンナー。コードバンタンナーとしての知名度はNo1かもしれません。
シェルコードバン
言わずと知れた、コードバンの王。オイルをたっぷりと含んでいるため、新品のときからズバ抜けた光沢を放ちます。
極めて美しい革です。見て、触って楽しめる。所有する満足感が群を抜いています。
一方、「ラフさ」があります。染料で染め上げているため、濃淡や毛穴が目立つ個体もあります。いくつかシェルコードバンのアイテムを持っているのですが、ナチュラルやバーボンなど淡いカラーほど、ロット差が顕著な印象です。ただ、使い込んでいくと毛穴も目立たなくなっていくので、あまり気にせずガシガシ使いましょう。
ハリがありつつ、もっちりとした質感があります。オイルの保有量が新喜皮革より多いのでしょうね。
コードバンは繊維密度が高いため、牛革の3倍丈夫だと言われています。が、それは耐久性のはなし。スムースで光沢のある表情だからこそ、キズが付きやすく目立ちやすい。雨に濡れると「シミ」だってできるのです。
デメリットは非常に高価なこと。クロコなどのエキゾチックレザーを除くと、もっとも高価です。希少で流通量が少ないから、高い。結果として、人と被りにくいので、ある意味メリットかもしれません。
もともと高価なのだけど、2008年から2022年にかけて、お値段が3倍以上も上昇・・・。コードバンの生産量が少なくなったにもかかわらず、世界的な需要は高まったため。今後も需要が少なくなることはないでしょう。いつかはシェルコードバンのアイテムが欲しい。そうお考えなら、早く買ったほうがいい。そんな革です。
参考
ホーウィン社 シェルコードバンとはなにか
シェルコードバン スタンフォード長財布のレビュー
クロムエクセル
滑らかな表面の牛革です。色・ツヤが変化する革です。
油分をたっぷりと含んでいて、新品の時からものすごくオイリーです。
質感や手触りは好みが分かれるところでしょう。
ブッテーロなどと比べると面積が2倍以上あり、部位によってはコシが弱いところも。ほとんどのメイカーは柔らかい部位も使うでしょうから、「硬い革」が好きなら、期待する硬さの個体を手に入れるのはかなり難しいです。
なお、非常に傷つきやすいです。引っ掻くと、白っぽくなり目立ちます。ただ、使っていると馴染んで少しずつ目立たなくなっていきます。エイジングを楽しみに選ぶなら問題ないでしょう。
参考
ROCADO社
イタリアの馬革を作るタンナーさんです。
1982年創業と比較的新しいタンナーさんで、さまざまな表情のコードバンを作っています。
コードバン
フルベジタブルタンニンなめし、かつ染料仕上げのコードバン。透明感のある表情、抜群の艶はまさにコードバン。
表面はラフです。小傷があるし、毛穴もあります。色のムラも目立つ。こういった点はホーウィン社に近いですね。均一に整った表情が好きなら、新喜皮革社かレーデルオガワ社のコードバンが気にいると思います。
カラーバリエーションが豊富です。ホーウィン社では廃盤となったウィスキー(淡いキャメル)も扱っていますし、複数の色をミックスした「マーブル」コードバンも作っていたりと非常に先進的なタンナーです。日本でほとんど流通していないのは、新喜皮革やホーウィン社が有名すぎるからでしょう。
参考
栃木レザー
ピット層を使った植物タンニンなめしの革を作っています。
栃木レザー
「栃木レザー」をひと括りにして、革の特徴を言うことはできません。なぜなら、「栃木レザー」とは栃木レザー社の作る革の総称だからです。
複数の革を作っており、それぞれ特徴が違います。革製品メーカー独自のレシピもあったりします。値段もピンキリで、一般的には高級レザーとされるイタリアのブッテーロやミネルバ、ブライドルレザーより高価なものもあります。
栃木レザーの革は○○である。と、言い切ることはできないため、本ページでは、数種類の栃木レザーを使ってみての解説となります。
まず、栃木レザー社の革は、ほとんどがタンニンなめし、染料仕上げです。つまり、色・ツヤが変化するエイジングを楽しめます。
丈夫でコシがあるものが多く、カバンの底面に使っても伸びないし。革財布にも使われたりしています(写真はカルトラーレ ジャミーウォレット)。
ここまで紹介した革と比べると、特徴が少なめで面白みはないかもしれません。チョイスするなら淡い色がいいかな。大きなアイテムなら、トラなどの風合いも楽しめる。染料仕上げの薄化粧だからこそですね。
坂本商店
兵庫県に拠点を構えるタンナーさんです。光沢のある革、黒桟革を作られています。
黒桟革(くろざんがわ)
立体感のある表情とキリッとした色あいが特徴です。カラーラインナップは、黒、藍染め(藍色)、紫、赤、緑となっています。こちらは藍染。
質感は一般的な革のイメージと異なると思います。うるし加工されていて、表面はカッチリと固い質感です。ところが、曲げるとしなやか。
サラリとしていて触り心地がいい。水、キズにも強くて丈夫です。ただ、エイジングはほとんど楽しめません。
表情にもラインナップがあります。手もみでシボを作った「極(極み)」。型押しなど、仕上げによって表情が異なります。
凹凸と色ムラが楽しめるので、カバンなどの大物ほどクロザンの特徴を楽しめるでしょう。非常に高価なため、なかなか市場には出回っていないレア感も本作の醍醐味ですね。
なお、色が濃くなったり、ツヤが出てくるようなエイジングはほとんど体感できません。
参考
あとがき
お気に入りの革は見つけられたでしょうか。
趣味嗜好はそれぞれ違う。だから、どの革がNo1かを決めることは出来ないし、それでいいと思います。