ホーウィン社 シェルコードバンの製品を20以上使ってきた経験から、シェルコードバンの特徴、カラーバリエーション、メリット・デメリット、メンテナンス方法などについて分かりやすく解説します。
ホーウィン社シェルコードバンを作るタンナー
馬のお尻の皮から作り出した革を「コードバン」と言います。コードバンの特徴は本ページでは割愛します。以下をご参照ください。
アメリカ イリノイ州 シカゴに居を構える、創業100年以上の老舗タンナー、ホーウィン社(Horween Corporation)が作るコードバンは「ホーウィン シェルコードバン」と呼ばれています。
表情
動画
シェルコードバンの表情は動画の方がわかりやすいと思います。色・ツヤを、明るい場所、暗い場所で撮影していますので、さまざまな表情をお楽しみいただけるはずです。
表面の表情
ホーウィンシェルコードバンの一番の特徴は、表情にあります。迫力のある、威風堂々としたルックス。
これは新品のときだけの輝きではありません。こちらは3年以上前に購入し、水に濡れたシェルコードバンですが、メンテナンスしながら使うことでツヤを見せてくれます。
ギラリと、艶やかに光る。バツグンの高級感があります(実際、高価です・・・)。
特にギュッと曲がるエッジがたまらない。世界にはさまざまな銘革がある。コードバン以外にも魅力的なスムースレザーがあります。でも、これほどまでに妖艶に光る革は存在しません。
明るい空間では、透明感のある肌を見せてくれます。
極めてスムースな表面も特徴のひとつ。鏡のように反射します。指のカタチをはっきりと、色まで写し出すのはコードバンだからこそ。
表情には個体差があります。あまり光沢がないものもある。これはこれでいい。使っているとツヤが出てくる変化(エイジング)を楽しめるからです。
表面には毛穴のある個体も。上品さは感じられないかもしれません。
新品のときから、薄っすらとキズが付いていることもある。
革製品の工房や、革屋さんでシェルコードバンを何度か見せてもらったけど、キズひとつない個体はありませんでした。わずかなキズ、数点の毛穴も許せないなら、合わないでしょう。バツグンの光沢とラフな表情を楽しめる人にふさわしい革です。
裏面の表情
艶やかに光るのは、表面だけ。
裏面です。表側とはまったく異なる表情。光沢も控えめです。しかし、スムースで毛羽立ちがない。一般的な革の床面とは違います。
こちらはブッテーロの裏面。繊維が毛羽立っています。
シェルコードバン 裏面の表情はそれぞれ違います。淡いキャメルカラーの均一なこともあれば。
染料がバチャッとかかったものもある。これもまた個性。同じものはふたつとないのです。
ちなみにホーウィン社のスタンプはコードバンの裏面に1箇所だけ押されています。個体によってスタンプの鮮明度も変わります。スタンプがかすれたものもありますし、ハッキリと綺麗に押されたロットもある。スタンプを見せる製品もコードバンマニアには人気です。
触り心地
サラリとしつつ、手にスッと吸い付く質感。
触り心地は、油分の保有量によって変わります。もっちりとした弾力があるときは、十分にオイルを含んでいる証拠。
一方、サラッとした触り心地しか感じられない、あるいはカサつきを感じるなら、油分が抜けてきているかもしれない。油分を補給するメンテナンスが必要かもしれません(後述)。
質感
グニッとした弾力です。厚みは1.0〜1.8mmくらい。部位によって繊維密度も違います。ハリ・弾力にも個体差がある革です。以下のブックカバーは1.8mmくらいで、ハリ感と柔らかさが楽しめる厚みです。
「1.8mm」の厚みそのままで製品を作るにはちょっと難がある。革の重なりが多くなる財布などでは、ほとんどが薄くスライスされて使われます。
「シェルコードバンの厚み、弾力」を楽しめる製品は、シェルコードバンをそのまま使ったものです。メジャーなブランドでは、LAST CROPS、一革くらいかな。ブックカバーのようなシンプルな構造のプロダクトなら、コードバンの質感を堪能できますね。
参考:LAST CROPS タングのレビュー
参考:一革 ブックカバーのレビュー
カラーバリエーション
ホーウィン シェルコードバンは、下記のカラーがラインナップされています。
- ナチュラル
- バーボン
- ダークコニャック
- ブラック
- ダークバーガンディ(#8)
- #4
- #2
- ネイビー
- インテンスブルー
- グリーン
色や表情などを参考にしたい方は、参考リンク先に飛んでみてください。ホーウィン シェルコードバン製品のレビューページにて20点以上の写真を掲載しています。
ナチュラル
定番のナチュラル。もっとも淡い色。キズや染みをごまかせないため、もっともキズが少ないコードバンがナチュラルになるはず。もっとも贅沢な色といえます。
エイジングによる色の変化を最大限味わえるのもナチュラルの魅力です。ただし、汚れが目立つため、玄人向けかもしれません。
ナチュラルの参考リンク
バーボン
定番。ナチュラルを2トーンほど濃くした色。
色ムラによる濃淡が分かりやすく、味わい深いです。
使い込むとブラウンに近づくので、オーソドックスで使いやすいと思います。ナチュラルより濃いため、汚れも目立ちにくい。気を使いたくないけど、色の変化も楽しみたい。そんなワガママを叶えてくれる色です。使って育てる楽しみがあります。
バーボンの参考リンク
three2four POCKETのレビュー
WILDSWANS コインケースのレビュー
WILDSWANS パーム バーボンのレビュー
ダークコニャック
バーボンよりずっと暗い。ブラックより淡い。
ブラック
大定番。キリッと締まる表情とダイナミックな光沢が堪能できます。汚れがもっとも目立たない色です。初めてのシェルコードバンなら、ブラックは間違いないですね。
ポケットに入れて、ガシガシ使った個体でも、綺麗です。細かいキズはやっぱり避けられませんが、汚れが目立たないのがいいですね。
ブラックの参考リンク
以下の動画では、新品のホーウィン シェルコードバンのブラック、ネイビー、グリーンを紹介しています。
ダークバーガンディ(#8)
こちらも定番。ブラックとバーガンディはホーウィンシェルコードバンを扱うブランドなら、ほぼ確実にラインナップしています。
ブラックは「遊び」がない。とはいえ、明るいカラーは使いにくい。であれば#8がおすすめ。深みのある赤(黒に近い)ため、派手さはありません。ビジネスシーンでも十分に使えます。
部屋の明るさによっては、黒にも見える。
太陽の下など、明るいシーンだと紫にも見える。シェルコードバンの迫力と妖艶さを堪能できる。定番カラーだけど、大好きな色です。
ブラック、#8のような濃い色はキリッと締まる風合いがあります。使っていると光沢が落ち(曇ったようになり)、ぼやけた感じになることもあるのですが、乾拭きするかワックスでメンテナンスすると、キリッと美しい表情に戻ります。これが楽しいんですよ(メンテナンスは後述)。
ダークバーガンディの参考リンク
WILDSWANS シェルコードバンキーケースのレビュー
flathority ラウンドウォレットのレビュー
#4 (Number 4)
名前を持たない色、Number4です。
#8より淡く、赤と茶が混じったような色合い。Number4くらい淡くなると、陽の光に当たると色味が違って見えます。
個体差がありますね。#4同士を比べても、ちょと違う。茶色っぽいもの、赤っぽいもの。
#4の参考リンク
three2four SIZのレビュー
一革 シェルコードバンブックカバーのレビュー
#2 (Number 2)
赤いシェルコードバン。あまり見ないレアカラー。WILDSWANSが周年記念でラインナップしていたくらい。個性的で、好みが分かれるかな。バーガンディなどがお好きなら。
#2の参考リンク
ネイビー
ちょっとレア。暗い空間で見ると黒に近いのだけど、明るい空間では透明感のあるネイビーになる。使い込むことで、より深い青にエイジングしていくはず。
凛とした雰囲気をまとう、大人のブルーです。
ネイビーとブラック。並べてみるとやっぱり違うんです。
(このページを見ている環境によっては「ブラック」に見えてしまうかもしれません)
インテンスブルー
ホーウィン コードバンの青は、ネイビーとこのインテンスブルーとなります。インテンスブルーの方が鮮やかな。ネイビーより淡い。一般的な青が好きなら、インテンスブルーが気にいるかな。
グリーン
ちょっとレア。
かなり濃いグリーンです。ブッテーロのグリーンより濃い。ブライドルレザーのグリーンに近い色。ロット差があるので、淡いシェルコードバンのグリーンもあるかもしれない。
部屋が暗いと、ネイビーにも見える。けれど、グリーンとネイビーを比べると、やっぱりグリーンです。
鏡面のような表情は、グリーンでも健在。
明るい空間ほど、緑が映える。
照明によっては、青みがかった緑になりますね。
ネイビー、グリーンをラインナップしているブランドはWILDSWANSなどごくわずかです。
グリーンの参考リンク
その他
他にもアマレット、マーブル(ミックスカラーで、ランダムな色)も作られています。珍しいところで、ロシアハッチという型押しを施したコードバンもあります。
廃盤
今、入手できるカラーがずっと手に入るとは限りません。たとえば、ウィスキーは廃盤です。
香り
香ばしい。
新喜皮革、レーデルオガワのコードバンより、香りは強いです。
主張してくるけど嫌味がない香り。
これまで30種類以上の革を体験してきましたが、中でもシェルコードバンはトップ3に入るくらい好きな香りです。
耐性
「コードバンは丈夫」と、まことしやかに言われています。
では、実際はどうか?
本章では、キズ付き、水にさらされたシェルコードバンを数年にわたり使用してきた体験をもとに、シェルコードバンの耐性について解説します。
キズ
キズに弱い。すぐに傷が付きます。ホーウィンシェルコードバンに限らず、スムースレザーは傷がつきやすいのです。
財布のように開け閉めを繰り返すプロダクトなら、爪で引っ掻いてしまうこともあるでしょう。確実にキズが付きます。
ただ、染料仕上げ、タンニンなめし革のため、使っていると目立たなくはなります。初めてキズが付いたときは、ショックを受けるかもしれませんが、次第に気にならなくなる。ガシガシ使って楽しみましょう。
水
水に弱いです。水滴が付いただけで、染みになります。
乾いたあとは、光沢が落ち、色味も白っぽくボヤけてします。
シェルコードバンの光沢は作られたものです。コードバン層を強制的に滑らかにする加工(グレージング)が施された結果なのです。水分を含むことでギュッと圧縮された繊維がほぐれてしまう。結果、表面に微細な凹凸が生まれ、スムースではなくなった部位が染みになるのです。
後述しますが、水に濡れてシミが出来てもメンテナンスで綺麗になります。
シワ
これがすごい。シワができにくいです。同じカタチの財布でコードバンとその他の革を使い分けていたのだけど、シェルコードバンはシワができにくいです。
エイジング
色、カタチ、香り、さまざまな要素が変化します。いわゆる「エイジング」を楽しめる素材です。本章では、シェルコードバンのエイジングについて解説します。
色の変化
シェルコードバンはタンニンでなめされた、染料仕上げの革。つまり、色が変化します。
変化の度合いは「シェルコードバンの色」によります。
色のエイジングを楽しみたいなら、淡い色を選んだ方が良いです。ナチュラル、バーボンなど。
一方、あまり変化して欲しくないなら、ブラック、#8、コニャック、ネイビーなど、濃い色をチョイスすると良いでしょう。
淡い色のシェルコードバンの変化
淡い色のシェルコードバンの方が、変化は顕著。ナチュラルならアメ色に。こちらはケツポケをほとんどせず、ワックスでのメンテナンスあり。
バーボンなら、より深い色に変化します。以下は60日くらい使用したときの写真。ケツポケもしつつ、無色のクリーム、ワックスで1度だけメンテナンスしました。
購入後2年ほど経過。トータル150日は使用したバーボンです。色は濃くなり、ツヤもしっかりと出ている。
濃い色のシェルコードバンの変化
ブラックのように「濃い色」だと、ほとんど変わらない。購入して2年くらいだったかな。150日以上は使っています。
もうひとつ濃い色、ダークバーガンディ(#8)。300日ほどはポケットに入れて持ち歩いていますが、ほとんど色の変化がわからない。ワントーン深まったかなという程度です。使用期間が長くても、ポケットの中のようにエイジングしやすい環境にあっても、ナチュラルやバーボンより色は変化しないのです。
カタチの変化
繊維密度が極めて高いため、伸びもほとんどおきない。型崩れには強いです。(シェルコードバンにも個体差がありますし、製品によって厚みを変えているため、断言はできません。)
カタチの変化も検証しました。フェアに比べるため、同一製品(WILDSWANSのPALM)を使っています。
どちらもカタチ・構造、内装の素材は同じ。100日以上使用。
- 外装がシェルコードバン
- 外装がサドルプルアップ
※サドルプルアップは、ハリ・コシがあり、堅牢な牛革です。
結論としては、シェルコードバンを使った財布の方が、元のカタチを保ちやすい。
ボリューム感。
もう一点、キーケースも検証。ほとんどポケットに入れて使用。それぞれ、200日以上使っています。
裏側にボタンがある場合、「アタリ」が出る。シェルコードバンの方がアタリが出ていない。
カタチの変化も少ない。シェルコードバンの方が型崩れには強そう。
香りの変化
空気にさらされるだけでも、香りは少しずつ弱まっていく。
ポケットに入れて持ち運び続けた個体でも、シェルコードバンの香ばしさがほんのりと残ります。
メンテナンス方法
シェルコードバンの使用頻度は、人によって違うはず。毎日使うのか、使わない期間があるのか。
状態もさまざま。光沢が落ちたのか。カサついてきたのか。キズが付いたのか、濡れたのか。
本章ではそれぞれのシチュエーションにおける、メンテナンス方法を解説します。
普段のメンテナンス
油分をたっぷり含んでいるため、乾燥にも強い革です。
また手で触れるたびに油分が補給され、コーティングされた状態になる。毎日手にするなら、基本的にオイルやクリームによるメンテナンスは必要ありません。
あまり使わないなら、乾燥していないか?などたまにチェックすると良いでしょう。状態を見て、適切なメンテナンスをしましょう。
光沢が落ちた
油分が多いワックスを使うことで、すぐに、カンタンに光沢を出すことができます。おすすめは、長谷革谷のコードバンワックス。「艶出し・油分補給」において優れています。
長谷革屋でメンテナンス。光沢が復活します。2年ぶりのワックスメンテナンス。傷つき、汚れも付いているんでしょうけど、迫力がましますね。
ちなみに長谷革屋は、ホーウィンシェルコードバンだけじゃない。新喜皮革のコードバン、ブッテーロなどにも使えます。ただし、ツヤが出すぎるため、ゆっくりとエイジングを楽しみたいなら、あまり使わない方が良いかも。油分追加、ツヤ出しには最適です。
乾燥してカサついた
ギュッと折れ曲がる部位は乾燥しがち。両サイドに油分が移るからです。乾燥してカサつきやすい。耐久性も落ちているため破れやすい。
「折れ曲がる」シェルコードバンや、1年以上使わない場合は、乾燥していないかチェックしましょう。
クリームやワックスを使って、油分を補給してあげましょう。もっちりとした弾力、ツヤが復活します。
詳細は以下を参照ください。
染みができた
濡れるとシミができますが、使っていると、少しずつ目立たなくなります。
before。濡れて、染みができた直後。
after。200日以上使用。毎日触るから油分が補給され、ポケットに入れて歩いていたため乾拭きされてエイジングしたのでしょう。ほとんど分からなくなりました。
ほぼ毎日持ち歩いての変化ですから、時間がかかりすぎです。早く染みを目立たなくしたいならワックスを使うと良いでしょう。全面が濡れ、大きく染みができ、光沢が落ちても、ある程度復活させることは可能です。
Before。雨に濡れてすぐに拭き取った#8(水滴が付いていたのは1分未満)。濡れた箇所はスジになっています。曇り、光沢が落ちています。
After。長谷革屋のワックスを使いました。
シミのできたシェルコードバンに長谷革屋のワックスを使って、シミを取る動画です。
油分が多めのワックスを使うと、光沢が出る。染みが目立たなくなります。
詳細は以下を参照ください。
価格
コードバンの大きさ、グレード、購入ルートなどによっても変わりますが、10平方㎝あたり2,000円以上です。有名な牛革でも100円台、ブライドルレザーでも200〜400円台です。いかにシェルコードバンが高価かわかりますね。
なお、シェルコードバンの価格は、上がり続けています。ここ20年で、ほぼ2倍くらい。
革の価格は、さまざまな要因で上下します。例えば、需要の変化。シェルコードバンが高価になった理由のひとつは、生産が追いついていないこと。中国をはじめ、需要国が増えたたため、昔より安定して供給できないとのこと。
今後も値上がりするかもれない。そうなると、当然ながら製品価格も上がります。手に入れたいなら、なるべく早く買った方が良いでしょう。
あとがき
世界最高価格のスムースレザー、ホーウィン シェルコードバン。
傷つきやすく、新品の美しさがずっと続く革ではないのだけど、世界最高峰のツヤ、エイジングを楽しめる素材です。