家具工房pat woodworkingへオーダーした革の椅子が届きました。
本日は『おあげ』をご紹介します。
特徴は以下のとおり。
- スツールタイプの椅子
- サッと座れて、サッと立ち上がる用途に最適
- サドルプルアップなどのタンニン革を贅沢に使用
- 革と木のエイジングを楽しめる
本ページでは、おあげの使い勝手、特徴などを分かりやすく解説します。
動画
サイズ感、使ってみた様子。サドルプルアップの表情などが伝わるように、動画にしてみました。
カタチ、構造
リラックスするなら、ソファー。
長時間デスクワークするなら、オフィスチェア。
などなど。用途、効果によって椅子のカタチも変わるのです。
では、「おあげ」はどうか。
極めてシンプルな椅子です。ただ座るだけ。
いわゆる、「スツール」にカテゴライズされる椅子ですね。
背もたれも無いから、360度好きな位置から座ることができて、気軽に座れて、すぐに立ち上がる。サッと移動させることができる。取り回しの良い椅子です。
天板は少し反った、シンメトリなフォルム。
サドルプルアップの一枚革が贅沢に使われています(革の詳細は後述)。
本作の名前も、一枚の「おあげ」が乗ったようなルックスから決めたのかもしれません。
革のぷっくりとしたハリが、カチッとしすぎない雰囲気を作りあげています。
購入のきっかけ
当サイト、「機能的な財布あります」の写真・動画は、中腰になったりして撮影しています。1つの記事で100枚ほど写真を取り、1時間ほど撮影したりするため、身体に負担がかかっていました。
だから、
さっと座れて、
さっと立ち上がることができて、
さっと移動させることができる。
そんな椅子が必要でした。
結論としては、「おあげ」は上記の用途において極めて優れています。
それと、タンニン革を使った椅子が欲しかった。
後述しますが、「エイジングを楽しめる上質な革」を使った椅子は、とても珍しい。「革の椅子」の変化する様を検証したかったのも理由です。
座り心地
おあげは、固めです。
例えば、無印良品のソファ。柔らかいソファと硬いソファがありますよね。
どちらが良い/悪いではない。用途が違います。
柔らかいソファはリラックスできるけど、沈み込むため立ち上がりにくい。
一方、硬いソファはすぐに立ち上がることができるけど、身体を預けてリラックスする使い方には最適ではない。
「おあげ」は、後者です。
「すぐに座れて、すぐに立ち上がることができる」。この用途において、優れています。
2mm強の厚みのサドルプルアップは、革好きにはたまらないですね。
コシのある革。さらに中に芯材が入っているため、キチッとハリ感のあるルックス。
少しクッション性があります。
受け皿は、薄くスライスした木を重ねた構造。ミルフィーユのようになっています。剛性が高く、たわみもほとんどありません。
天板までの高さは約40cm。リラックス用のソファより高めです。
この高さも「サッと使える」という用途にはピッタリだった。座ったときに膝を大きく曲げない姿勢になるので、立ち上がるときに膝への負担が少ない。ヨイショではなく、サッと立ち上がる事ができる。(座り心地は身長にも依存するはず。私は178cmくらいです)
素材、つくり、サイズ。
これらがあいまって、使い勝手の良い椅子に仕上がっています。
特徴
最高の素材
革と木。どちらも最高の素材です。
それぞれ解説しましょう。
サドルプルアップ
天板に貼られた革は、サドルプルアップ。私の好きな革のひとつです。
ベルギーのタンナー、マシュア社のオイルレザー。
日本ではWILDSWANSやLAST CROPSの製品に採用されています。
サラリとしたスムースレザーで、ハリがあり、ほど良い弾力もある。
世界の銘革と比べると、ミネルバ、アラスカより固く。ブライドルレザー、ルガトーより柔らかいといったところ。
牛のショルダーを使っているため、大きくトラが入ることもある。
好みが分かれる表情だと思います。
トラが嫌なら、顔料仕上げの革を選ぶと良いでしょう。
pat woodworkingの使う革(サドルプルアップとブッテーロ(後述))は、タンニンなめし、染料仕上げの革です。トラだけでなく、色の濃淡だってあるのです。
染料仕上げによる透明感のある肌に、トラのワイルドさがあいまったロットです。満足。
トラは天然素材の証です。動物の皮を、平坦になめす過程でトラはできる。
WILDSWANSの財布でも、トラが入ったものがありましたが、その個体を選んだことさえある。私はトラを含めてアジだと思うので、これはこれで好みなんですよね。
黒檀
おあげは、いくつかの木材の中から選んでオーダーできます(詳細は後述)。
私が選んだのは黒檀(エボニー)。
縞模様の入った、黒に近い茶色です。
エボニーは極めて丈夫な唐木(からき)です。
ウォールナットの1.4倍の硬度があり、キズや凹みに強い。
重くなってしまうのがデメリットですが、「おあげ」なら難なく持ち上げることができますね。
エボニーは熱帯雨林に近い地域の種。日本には存在しません。
本作もインドネシア産ではないか、とのこと。
今日では希少な素材です。
革の場合は、ワシントン条約で制限がかかっているものがありますね。
同じように、材木にも制限がかけられているようで、エボニーもそのひとつ。乱獲により少なくなり、輸入制限がかかっています。新品のエボニーは手に入りません。本作も、床柱として使われていたものを再利用しているとのこと。
人工的に作り出すことができない希少な素材は、時代が進むことで手に入りにくくなることがある。チークの家具も、今は作られていませんからね。
普段目にすることがないのだけど、裏面も綺麗です。
美しく変化する椅子
「変化する」という点でも、おあげは特別です。
革の変化
革は、ふたつの製法にわかれます。
ひとつは、タンニンなめしの革です。サドルプルアップや、ブッテーロ(後述)はこちら。色ツヤの変化を楽しめる革です。
もうひとつが、クロムなめし、かつ顔料仕上げもある。(タンニンとクロムを組み合わせた、コンビなめしもある)。
では、どちらの革が良いのか?
甲乙つけることはできません。それぞれ特徴が違うからです。
クロムなめしの方が、柔らかくしなやかで丈夫な革になる。
顔料の方が、色の濃淡がなく鮮やかな発色になり、色落ちも少ない。
水にも強いから、シミにもなりにくい。つまり、新品に近いルックスが長く続くのです。
一般的に椅子に使われる革は、クロム(もしくはコンビなめし)革が多いそうです。「椅子」は座る道具です。肌に密着し、かつ数十kgの圧力がかかり続ける。しかも何年も使いつづけるわけですから、クロム革を使うのは理にかなっていますね。
一方、サドルプルアップは、水に濡れて放置すると染みになるし、キズだって付きやすい。
その代わり、エイジングを楽しむことができる。
新品のときはギラリとは光っていません。微細なシボが繊細な光沢を生み出してくれる程度。
ここから、色は深みを増し、さらに光沢があがってくる、ダイナミックな変化を楽しめる革です。言い換えると「新品のときの美しさがずっと続く」を希望するなら、おあげは合わない。
使い込むことで、使った人なりの変化こそ、おあげの醍醐味なのです。
木の変化
エボニーも変化するようです。
内部に油分を多く含んでいるため、乾拭きすることでツヤが出てくるらしい。
なんだかオイルレザーみたい。ここも惹かれたポイントです。
美しい仕上げ
美しく磨かれたエボニーは、ツルリとした質感。写真で伝わるかな。指のカタチが写り込むほどにスムースなんです。
天板に近い方は太く、足元は細く。なだらかに変化していく流麗なフォルム。
天板は、ミルフィーユのように数層の木の板を重ねられているのだけど、ササクレがなく、つるりと仕上げられています。
見た目が良いだけではない。移動させるときに手で触れるパーツだから、ツルリとした手触りも大切な機能なのです。
天板とサドルプルアップは、グルリとステッチされています。
コバは染色されていない、素磨きかな。磨けば光るのもタンニン革の特徴です。
オーダー方法
革、木、ステッチ、足裏のシールの有無を決めてオーダーします。
革
2種類の革から選ぶことできます。
- サドルプルアップ
- ブッテーロ
サドルプルアップ
本ページで紹介している革。
ハリ、さらりとした質感、エイジングを楽しめる、丈夫な素材です。
ブッテーロ
イタリアのタンナー、ワルピエ社のオイルレザー。
発色が良く、スムースな手触りです。新品のときはさらりとしたマットな質感です。
ショルダーを使っているため、トラ(シワ)があったりもする。さらに色もロット差による違いが大きい印象です。
ブッテーロも個人的に大好きな革のひとつ。
タンニンなめし、かつ染料仕上げの革だから、エイジングします。
色は深みを増し、ツヤもあがる。
だから、色ブレやキズがついても、気にせずガシガシ使えばいいんです。
木
左から、
- ヤマザクラ
- ウォールナット
- ナラ
- ケヤキ
- メープル
この5木材が定番。
それぞれ色、木目、手触り、そしてエイジングが違います。
どの木材も、家具屋さんに行くと取り扱っています。見て・触って、お好みで選ばれると良いでしょう。
色が濃くなる変化を味わいたなら、サクラがいいみたいです。
「ヌメ革のエイジング」がお好きな方向けかな。
これ以外にも、ウェンジ、エボニーなどの木種で作ってもらえるかもしれません。
※私は、オーダーの相談をして、エボニーを選びました。木の種類によって価格は変わります。定番の木より、ずっと高価になります。
ステッチ
ステッチは装飾としての役割もある。お好みで。
個人的には今回のように「革」を堪能できる製品では、革色と合わせたほうが良いと思っています。
フェルト
フェルトの有無も選べます。
フローリングでキズを付けないように、付けてもらいました。
屋外で使うと、フェルトに小石が付くことがある。そのまま屋内で使うと、フローリングに傷がつくそうです。(私は屋内でのみ使うので、付けてもらいました。)
完成までの期間
在庫状況によって変わるそうです。
たとえば、パーツがある程度できている場合は、1ヶ月ほど。
パーツ作りから始めると3〜4ヶ月ほどかかるとのこと。
pat woodworkingは、職人である岡田氏が一人で運営されている日本の家具工房です。
オーダーして待っている時間が長いほど、楽しみも増します。
あとがき
おあげに初めて座ったのは、2015年だったかな。WILDSWANSの店舗(京都、銀座)に行くたびに座らせてもらっていて、ずっと気になっていた製品でした。
ずっと使うし、使っていない時間も部屋に存在する。
だからこそ、機能的で美しい椅子が良かった。
使っていくうちに美しく変化していく椅子が良かった。
本作は、家具職人、岡田氏による一品生産です。
完成までに3〜4ヶ月かかるとのことだったし、実際それくらいかかりました。
待った甲斐があった。とても満足できる製品です。大切にします。