ユニークな革製品をつくる革工房、three2four。大好きなブランドのひとつです。
本日ご紹介するのは、そのthree2fourの『FLASH』。
いわゆる「靴べら」ですが、そこは流石のthree2four。
一般的なものとは異なる、ユニークな一品に仕上がっています。
動画
クロコとエレファントの質感・ハリ感が伝わればいいのですが。
使い勝手
ほぼすべての靴べらは、金属が使われています。剛性の高い金属をベースとすることで、体重を思いっきりかけても、たわまない。「靴べらの使われ方」を考えると、理にかなっています。
一方、FLASHはどうかというと、オールレザー。金属が使われていない。
一般的な靴べらとはルックス、フォルム、サイズ、つくり。すべてが異なります。
表面(かかとを添える面)はクロコダイル。矩形のウロコが並ぶ、いわゆる「竹斑(たけふ)」ですね。
かかとを添える面だから、摩擦が生じるし、キズもつきやすいはず。ただ、斑のおかげでキズが目立ちにくい。靴べらの素材としてもクロコはふさわしいのかもしれません。圧力もかかるので、マットブラックの表情も次第にツヤが生まれてくるでしょう。
裏面はエレファント。微細なビーズ状の凹凸が連なる表情は、エキゾチックレザーの中でも異色だと思います。なかなか見かけない、珍しい素材です。
2枚の革を張り合わせただけでなく、中にさらに革が入っているとのこと。
シンメトリなウロコの配置は、均整なルックスだけでなく機能的にも役立っている。
ウロコの隙間に沿うように・・・、
背面に2つのラインが走っている。芯材の加工で調整しているのかな(文章では分かりにくいかも。ぜひ動画を見てください)。
だから、
中央に指を添えて、
クイッと曲げて使うときに、折やすくなっているのだと思う。革の弾力と仕立てによって、ハリが生まれ、しなるようにデザインされています。実に機能的です。
背面のエレファントは、微細なキャビアが並ぶ「スムースではない表情」だから、摩擦が生じる。ヌメッと引っかかる質感なので「滑り止め」としても優秀ですね。
折り曲げたFlashを添えて、
かかとを滑らせる。一般的な靴べらと、使い方は同じです。
FLASHは「曲げるアクション」が必要です。一般的な靴べらよりも、一手間かかる。これが嫌ならチョイスしない方が良いでしょう。
オールレザーだから、金属の靴べらと比べると剛性は低い。踏みつけるように体重をかけると、うまく入らないかもしれません。少しコツがいるけれど、かかとの滑りは、なかなか良いです。
特徴
クロコ×エレファントの贅沢な仕立て
クロコのどの部位を使うかによって、クロコ製品の印象はガラリと変わります。
「均整さ」を表現するなら、クロコのセンターを使って左右対称の表情が映えるように仕立てるはず。センターから外れるほど、均整さは失われていく。たとえば、わき腹に近づくほど、ウロコが細かく、丸くなっていくからです。
シンメトリな表情は人気があるから、「大きな製品」に採用されることがほとんど。均整な表情が、より映えるからでしょう。
ここで使わなかった、「センター以外の部位」が「小さな製品」に使われることが多いように思います。小さなウロコが並ぶことで、小さな製品でも「クロコの表情」を活かしやすいからでしょう。
職人さんは、すべての製品を「一番いい表情」に仕立てたいのだろうけど、現実は難しいはずです。
たとえば、クロコのセンターを使って仕立てる場合、残った部位はどうするのか。
切れ端を使わないなら、クロコの製品はとても高価になるでしょう。余すことなくクロコを使って製品を仕立てることで、リーズナブルに提供できて、利益も出る。大きな工房ほど、無駄なく仕立てているように感じます。ビジネスですからね。
ここに、デザインとビジネスとのジレンマが生まれるはず。
つまり、クロコのどの部位を、どの製品に、どのように使うかは、ブランドの方針によるのだと思う。こういうことを考えて、クロコ製品を見ると、ブランドのプロダクトへのスタンスが垣間見えて面白いです。
話を戻します・・・。
FLASHはどうかというと、センターが使われている。中央に、矩形がドンと配置されていて、上下左右ほぼ均等に並んでいる。ウロコは小さいから、顎下か尻尾の方かな。聞いた気がするのだけど、忘れてしまった・・・。
折り曲げて使うことを考えると、竹斑が一番良いのでしょう。一般的なクロコ製品とは異なり、「折り曲げやすさ」という特性で部位を決めなくてはいけない。小さいながらも贅沢なアイテムだと思います。
クロコはエキゾチックレザーの中でも、表情の個体差が大きい。一期一会のものだから、自分が気に入ったものに出会えたときの喜びはひとしおです。完全に同じ表情のFLASHには、もう二度と出会えないのです。(斑の好みは人それぞれ。いろいろなクロコの製品を見てみることをおすすめします。自分の好きな表情がわかってくるはず。)
ずっと触っていたくなる
冬は金属の靴べらを使いたくない。持ち手や、かかとを支える部分、むきだしの金属に触れると、凍ってるんじゃないかと思うほどに冷たいから。
一方で、革はオールシーズン気持ちいい。
バツグンの携帯性
一般的な靴べらはカーブを描くフォルムのため、どうしてもかさばる。また、金属が抜き身のものだと、他のアイテムを傷つけるためカバンの中に放り込んでおくことはできない。
一方、FLASHは、ほぼフラットで、わずか2ミリ強しかない。たぶん、世界一薄い靴べらです。
カードサイズくらいだから、財布やカードケースにだって収納できます。
靴べらを収納するのは、心理的にどうなの?。と、いうところはあるけれども。さすがに、名刺入れに入れちゃダメですね。
個人的には、パンツのポケットに入れて持ち歩くのが好き。邪魔にならないし、ポケットに手を入れたときにクロコとエレファントの手触りを楽しめるから。革オタクには至極の時間です。入れたまま洗濯しないよう、注意が必要ですが…。
冬はエイジングが加速するから好きです。
あとがき
FLASHのような靴べらをラインナップするのは、three2fourだけではないでしょうか。
ほとんどの人はFLASHを知らない。パッと見、靴べらには見えないのだけど、「靴べら」としての役を担っていてる。使っていてカッコいいから、持ち歩きたくなる。
そんな満足感が味わえる1品です。