革が変化していくことを「エイジング」といいます。
本ページでは、200以上の革製品を使用し、エイジングを楽しんできた革マニアの視点で、エイジングについて分かりやすく解説します。
- そもそもエイジングとは何か?
- どうしたら美しくエイジングできるのか?
など、エイジングについてのさまざまな疑問がスッキリするはずです。ぜひ参考にしてみてください。
エイジングとは何か
「エイジング」とは、革の変化のすべてを指します。具体的には以下の変化です。
- 色
- ツヤ
- なめらかさ(質感など)
- カタチ
- 重さ
それぞれ、詳細を解説します。
色の変化
革の色は、濃くなっていきます。特に黄色などの「淡い色」ほど変化が顕著です。
革によって変化の度合いは異なります。この革はイタリアのオイルレザー、ミネルバリスシオ。「もっとも色の変化が顕著」な革です。数ヶ月で色・ツヤがぐんぐんと変化します。こちらは150日使用したミネルバの黄色(ナポリ)。
なお、使用方法によってエイジングの度合いは変わります。毎日手に触れ、持ち運ぶアイテムほど早く変化する。以下の動画はミネルバリスシオのナポリ(黄色)を100日持ち歩いての変化です。新品のミネルバとも比較していますので参考にしてみてください。
「ブッテーロ」という革は、ミネルバよりもゆっくりと変化します。(写真はストラッチョ)
また、色が濃いほど、変化は分かりにくいです。たとえばブライドルレザーの緑色はかなり濃い色のため、色が濃くなったと体感しにくいです。以下は1年使った動画です。
なお、使用しない場合でも、色は変化します。光(日光や蛍光灯)などが当たる場所に置いておくと変色します。色の変化を抑えるなら、暗所に保管しておきましょう。
色が変化する革について
「色の変化」は、すべての革で起きるわけではありません。
革の作られ方によって決まります。
革をつくる方法は、大きく2つに分かれます。色が変化する革は、下記(★)のもの。タンニンなめし、かつ染料仕上げの革です。
- タンニンなめし(★)
- クロムなめし
また、革にはさまざまな「色」が付いています。この染色方法も2つあります。
- 染料仕上げ(★)
- 顔料仕上げ
タンニンについて
「皮」とは動物の肌(スキン)のことです。そのままの状態では長持ちしません。乾いたり、腐ったりしてしまうからです。そこで「タンニン」などの素材によって、製品として長く使える「革」に変化させます。この工程を「なめし」といいます。
革の色が変化するのは、タンニンに含まれる「渋(しぶ)」が、変化するからです。
革の色合いが深まるように変わっていくのは、このタンニンの成分のおかげなのです。「渋」は、空気や紫外線に触れることによって、酸化し、色が濃くなっていくため、「使っていない革製品」でも、少しずつ変化します。
タンニンをたっぷり含むのが「渋柿」です。天日干しすることで、柿が茶色っぽく変化していくのは「渋」が変化しているからです。
染料仕上げについて
染料仕上げとは、「水溶性の染料」を革の芯まで染み込ませることで、染め上げる方法です。
透明度の高い染料のため、革のもつ風合いを活かすことができます。革の表情を、もっとも味わえる染色技法なのです。
エイジングを楽しめる、メジャーな革をピックアップしてみましょう。
ブライドルレザーやコードバン、ミネルバ、ブッテーロなどですね。
こちらは、ミネルバボックス。新品のときから革の風合いが楽しめるのだけど。
半年でこうなる。色合いがかなり深まっていますよね。加えて、「ツヤ」、「カタチ」もクタッとしてヤレ感が出ています(ツヤ、カタチの変化については、後述)。
一年たつと、ツヤも色もかなり変わります。ツヤ感がわかる動画が以下です。
さまざまな革を愛用してきましたが、「色ツヤ」の変化率ではミネルバがNo1。世界一の劇的なエイジングを楽しめる革だと思います。
染料仕上げでは、動物が生きていたときに付いた「キズ」を隠すことができません。淡い色あいの革なら、色ムラもあるのです。
キズや色ムラがあっても製品として売り出せるのはスゴイことです。薄化粧で勝負できる、誤魔化していない上質な革の証です。
※キズが多い皮は、このあと紹介する「顔料仕上げ」で色を付けられています。
色が変化しない革
顔料が多く使われた革は、ほとんど色が変化しません(顔料仕上げといいます)。
原料仕上げとは、革の表面に「水に溶けにくい塗料(顔料)」を塗って彩りを加える方法のこと。ビビッドな色合いを表現できますし、水に強く色落ちしないという特徴があります。
ただし、革の表面を顔料でコーティングしているため、革本来の風合い、自然な美しさは控えめです。何より、色・ツヤが変化するエイジングをほとんど楽しむことができないのです。
なお、「顔料仕上げ=ダメな革」ではありません。
たとえば、ドイツシュリンクの名称で親しまれる「シュランケンカーフ」。顔料を使うからこそビビッドな美しさが楽しめます。
どちらが良いと感じるかは、人によるでしょう。
色ムラなく、ビビッドな美しさを長く楽しみたいなら、顔料仕上げ。
色の変化を楽しみたいなら、タンニンなめし、かつ染料仕上げ。
このようにチョイスすると、幸せになれるかと思います。
ツヤの変化
革のアイテムを使っていると、やわらかな光沢を身にまとうようになります。「ツヤ」と呼ばれるものです。
ツヤが出るのは、オイルが革の表面を覆うこと(オイルコーティング)で、光を反射しやすくなった状態に変化するからです(写真はホーウィン社 シェルコードバン)。
シボのある革でも圧迫されることで、革がなめらかになります。革によってはツヤが出るだけでなく、鏡のように映し出すほどの変化を見せてくれます(写真はミネルバボックス)。
ツヤが出やすい革には、2つのポイントがあります。
1.オイルレザーであること
オイル(油分)をたっぷりと含んだのがオイルレザーです。メジャーなオイルレザーは、コードバン(特にホーウィン社 シェルコードバン)、ミネルバ、ブッテーロです。
オイルをたっぷりと含んだ革は、革の芯部にまでオイルが浸透しています。普通に使うだけで、革の中からにじみ出たオイルが、表面をコーティングしてくれます。これが光沢(ツヤ)をまとうようになるんですね。
オイルコーティングされた革は、水への耐性も強くなります。水が付いてもすぐに染み込まず、水玉のように表面に付着する。数十秒なら浸透しません。拭き取ってあげれば問題なし。
一方、オイルが少なく作られた革もある。これは見て、触って判断します。見た目はマットだし、触ったときにサラリとしています。
油分が少ない革にツヤが生まれるのは、クリームなどでメンテナンスをしたり、使うことで指から油分が移るからです。つまり、オイルレザーに比べると、ツヤが出るまでに時間がかかります。
2.毎日使うこと
財布を例に、エイジングを考えてみましょう。カバンなどより小さくて、全面を手で触れることになります。手の油分だけで、全体がうるおい、ツヤをまといます。
だから財布の場合、ほとんどメンテナンスが必要ありません。毎日手に取るため、手から油分が財布に移る。適度にオイルコーティングされた状態が続くからです。
一方、革靴、カバンなどは雨風にさらされ、油分が抜けやすい。メンテナンスが必要です。
たくさんの財布を使い分ける場合は、たまに手入れしてあげましょう。油分がなくなると乾燥して、カサカサになったりする。表面がダメージを受けやすく、最悪ひび割れが起きることもあります。
なめらかさの変化
革の表面には、微細な凹凸があります。天然の素材である証です。
革を使い続けることで線維が寝ていきます。少しずつ凹凸が無くなり、なめらかになっていきます。
たとえば、ホーウィン社のシェルコードバン。毛穴や、トラ(血管の跡)が残っていることがあります。
これも使うほどにスムースになるため、目立たなくなっていきます。
カタチの変化
革は「線維の集合」です。カバンやポケットに入れて使ううちに、その線維がギュッと押されて凝縮していきます。ハリが強く、厚みのある革財布も、しなやかになり、スリムになっていきます。
カタチが変わるのが嫌なら、ヒップポケットへ入れるのを避けて、カバンで持ち歩きましょう。さらに、型くずれを避けるなら、コインケースを別に持つとよいでしょう。
ヒップポケットに入れず、小銭入れを使わない。この2つを守るだけで、新品のときのカタチを長く楽しめます。
重さの変化
革は水分や油分を保持するため、重さも変化します。
ケツポケを続ければ、湿気がたまり水分が含まれますし、クリームを使ったり、手で触れることで追加された油分も中に閉じ込めてしまう。この場合、財布は重くなります。
逆に、湿度の低い環境で放置すると油分が抜けて軽くなるでしょう。
重さの変化度合いは、革によっても違います。変化しやすいのは、油分を保有しやすい革。つまり、タンニンなめし、かつ、染料仕上げの革です。
たとえば、サドルプルアップを使ったWILDSWANSのパームは、ケツポケもしたし、クリームも入れたりもしました。結果、新品のサドルプルアップパームと比べると、数グラム変化しました。
美しくエイジングさせる方法
美しいエイジングのためのポイントは、2つしかありません。
毎日使うこと
1つは、毎日使ってあげること。手の油分が移ることで、オイルの膜でカバーされ、潤った状態になる。乾燥せず、ツヤが続くわけです。
毎日使うことこそが、美しいエイジングへの道です。不思議と革もそれに応えてくれるものです。
良い環境で使う
もう1つは、革にとって良い環境で使うこと。
適温、適湿な場所で保管する
気温が高くなる、夏の車内に置きっぱなしにするのは避けましょう。革が歪んでしまう恐れがあります。
また、カビが発生しやすい、湿度の高い場所は避けてください。一旦カビが発生すると、取りきることはできません。
カビ対策としても、オイルレザーをおすすめします。エイジングを楽しめるだけでなく、オイルがカビの発生を防いでくれるからです。
オイルの多い革は、コードバン、ミネルバ、マレンマ、ブッテーロですね。
それぞれの皮革の違いは、こちらをご参照ください。
ヒップポケットに入れない
革にとって、汗は大敵です。
汗に含まれるアンモニアにより、変色する恐れがあります。塩分はオイルや染料との相性が悪く、カサカサになってしまうからです。
手ぶらででかけたいとき、革の財布やキーケースなど、ジーンズに突っ込んで持ち歩きたくなってしまいますが、夏は避けたほうが良いでしょう。
エイジングを加速させる方法
私は身の回りのほとんどのアイテムを革で揃えていて、いくつも持ち歩いています。
そして、私くらいマニアになると、より早く育てたい欲求が生まれてくるわけです。
本節では、私が実践する、早くエイジングさせる方法をご紹介します。
乾拭きする
たまにお手入れしています。といっても、乾拭きするていど。
革が乾燥してない場合、オイルやクリームは塗りません。革のハリ・コシが落ちてしまうからです。
ホントに大丈夫なの?と思われるかもしれません。
例えば、革で作られた「車のハンドル」にはクリームを塗ったりしませんよね?メンテナンスしなくても、何年も使ううちに、ツヤが出てきます。毎日触れる革製品に、過剰なメンテナンスは必要ありません。
こちらは一度もクリームを使っていないマレンマ。3年以上使っています。
こちらはノーメンテナンスで2年のブライドルレザー。クリームを塗らなくったて、問題ないのです。
このグローブは4年以上使っています。おすすめです。
カバンのポケットに入れて持ち歩く
ポケットに入れておくと、持ち歩くだけで財布が「乾拭き」される。次第にツヤがあがってくる。持ち歩くだけでエイジングが進みます。
サイドポケットなど、押しつぶされない場所が良いですね。
日本の革製品は、最高のエイジングを楽しめる
世界には1,000種類以上もの革があります。その中でも、日本の革工房はトップクラスの革を使っています(写真は、クレバレスコの新喜皮革コードバン財布)。
日本人の品質基準はとても高いため、「日本人が満足する革」でなければビジネスとして続けることができないからです。コードバン、ミネルバ、サドルプルアップなど、名革と呼ばれるものが使われているんですね。
最高の素材を、最高のレベルで仕立てた日本の革工房のアイテムをおすすめします。
あとがき
本ページでは、実際にエイジングさせ、体験し、実践していることを、ありのままにお伝えしました。
革のエイジングの面白いところは、人によって変化が異なること。使い方によって、同じ革でも、異なる表情に変わっていくことにあります。だからこそ、味わい深く、愛着も生まれる。
ぜひ、皆さんなりのエイジングを楽しんでみてください。