ミネルバボックスとミネルバリスシオは、大好きな革。
本ページでは、ミネルバのアイテムを20以上利用してきた経験を活かし、ミネルバの特徴、メリット・デメリット、エイジング。ケア方法など、分かりやすく解説します。
ミネルバについての、ありとあらゆる情報が分かるはず。参考にしてみてください。
ミネルバシリーズの特徴
ミネルバの特徴は以下のとおり。
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- 透明感のある色あい
- 革本来の風合いを味わえる表情
- オイルレザーだから、汚れや水に強い
- やわらかな肌目は、キズが付きやすい
- 色が深まり、ツヤが生まれる。優秀な「育つ革」
エムピウやWILDSWANSなど、日本有数の革工房がセレクトするのは、ミネルバに魅力があるから。本ページではその魅力をたっぷりとお伝えしましょう。
ミネルバは大きく2種類あります。
- ミネルバリスシオ
- ミネルバボックス
少し特徴は違いますが、兄弟のようなもの。
本章では、それぞれの特徴をわかりやすく解説します。
ミネルバ リスシオ(Minerva Liscio)
まずは、バダラッシ・カルロ社の代表作。ミネルバシリーズのリスシオ。
ざっくりと特徴をあげると、こんな感じ。
- スムースな表情
- 手に吸いつく手触り
- ぐんぐんとエイジングする
- 革の風合いを活かした、透明感のある表情
順に紹介していきましょう。
素材は、アルプス地方のステアハイド。タンニンなめし、染料で染めた革です。
「リスシオ(Liscio)」とはイタリア語で、「スムース」を意味します。皮の風合いをそのまま活かした表情は、その名のとおりバツグンにスムース。
たっぷりと油分が含まれているため、吸いつくような触り心地を楽しめます。
リスシオは、顔料(水に溶けない染料)を塗りたくった厚化粧の革ではありません。
「薄化粧」の革なのです。だからこそ、奥行きのある透明感、革の風合いを楽しむことができる。
一方、引っかき傷がつきやすく、水分による色移りも起こります。
ミネルバ ボックス(Minerva Box)
もうひとつのミネルバシリーズが、「ミネルバ ボックス」。
リスシオとの違いは、こんな感じ。
- シボの風合いが楽しめる
- 柔らかな手触り
ミネルバ・リスシオとの違いは、表情です。リスシオの仕上げに「揉み加工」により、シボを生み出したのがミネルバ・ボックスです。
自然で繊細な凸凹といったところでしょうか。
「シュリンクレザー」をイメージされるかもしれませんが製法が違います。シュリンクは、薬品を使って強制的に縮める加工です。均等なシボ感と、弾力が特徴ですね。
以下の写真は、シュリンクレザーの「シュランケンカーフ(ドイツ・シュリンク)」です。ミネルバ ボックスよりもシボの凹凸があり、弾力も強い。
ミネルバは個体差のある素材です。ほぼ新品のミネルバのオルテンシアを並べてみましょう。
青が強いもの、淡色で水色に近いもの。緑がかったもの。色に個体差がある。これは、ミネルバが染料仕上げだから。部位によって繊維密度が異なるため、染料の浸透度合いも異なるのです。生産ロットにより色が違ったりもします。
たとえば、オルテンシアを気に入ったとする。別のオルテンシアの製品を買ったとき「前回と色が違う」と感じるかもしれない。これは避けられません。しかし、気にする必要はありません。エイジングによって、最終的には同じ色味に変わっていくからです(後述)。
ミネルバ・ボックスは手揉みによる加工のため、部位やロットによって、シボに大小の違いが生まれやすい(ほとんどシボがない部位もある)。ここは選ぶことができないので、好みが分かれるかもしれません。
私の所有するいくつかのミネルバボックスのアイテムは、どれも凹凸が少ない。浅いシボだから、立体感はそれなりです。
また、シュリンクレザーよりも、しなやかなため、ブックカバーや財布のように手で触れることが多いアイテムに最適です。
ミネルバ ネビア(Minerva Nebbia)
参考に、もうひとつミネルバの兄弟を紹介します。ミネルバ ネビア。別名ナッパネビア(Nappa Nebbia)。
ミネルバの表面に、ロウ加工を施した革です。ネピア(Nebbia)はイタリア語で「霧(きり)」を意味しています。霧がかった表情が特徴。
ミネルバと比べてみる。左がミネルバ・ボックス。右がナッパネビア。ナッパネビアも部位によってシボの出方が異なります。
ロウの部位をこすると下地のカラーが出てきます。以下の写真ではグレーから黒になっていますね。
数ヶ月使うと、霧が晴れるようにロウが無くなっていきます。ロウは、革に馴染んでいるため、ツヤが出てきます。
5年と6ヶ月経過したナッパネビア。新品と比べるとかなり変わります。
参考:【レビュー】ミネルバ ネピア safujiミニ長財布
参考:【レビュー】safuji ミニ折財布
ミネルバの特徴
ミネルバボックスとミネルバリスシオ。両者に共通する特徴を解説します。
革の風合いを楽しめる、タンニンなめし革
「なめし」とは、皮を柔らかくし、製品に適した素材にかえる作業のこと。
「植物性タンニン」や、「ベジタブルタンニン」はその製法の1つです。植物から抽出したタンニンを使ってじっくりとなめす伝統的な製法です。
この製法で作られたミネルバには、自然な風合いが残ります。
また、エイジングを楽しむことができます(後述)。
染料で彩られた、美しい色合い
革の色は、染料仕上げ。水溶性の染料が入った桶(オケ)に革を漬け込むことで、革の芯までしっかりと色が入ります。
革の風合いを残しつつ、透明感のある表情に仕上げることができるのです。
革は天然素材です。それぞれ厚みや密度が違うため、均一な色味にすることは難しい。色ムラが生まやすいのです。そのため、ロットや部位によって色合いが違います。「同じ色合い」のものを量産するのが難しいんですね。
一方、奥行きのある透明感を持つ、美しい色に仕上がります。
「顔料仕上げ」は、革の表面に色を乗せる方法。キズや汚れに強く、均一でビビッドな色付が可能ですが、革の風合いはなくなる。いわば厚化粧です。
グングンと変化する。劇的なエイジングを楽しめる
革の色が変化する理由は、タンニンの成分である「渋(しぶ)」の変化です。
革に圧力をかけることで、タンニンの成分が表面に出てきます。空気や紫外線に触れることで、タンニン色素が変化し、革の色がグングンと深まっていくのです。
ちなみに、世界の90%をしめる「クロムなめしの顔料仕上げ革」は、色・ツヤが変化するエイジングは控えめ。新品のときからあまり変わりません。
さて、タンニンなめしの革はミネルバ以外にもあります。コードバンや、ブライドルレザーもタンニンなめし。エイジングします。
では、ミネルバのエイジングには、どういった特徴があるのか?
色ツヤの変化がスピーディーで、劇的。これに尽きます。
ミネルバボックスを例に、ご紹介しましょう。
こちらは新品のミネルバボックス。カラーはオルテンシア。深い青緑です。シボがある表情だけど、それほど主張を感じない。マットな風合いだからですね。
4ヶ月後が、こちら。深い色に変わっているのが伝わるでしょうか。
また、ツヤもかなり出ます。before。
after。光沢が増すことでミネルバボックスの凹凸感が、より映えるようになりました。
色の深まりとツヤの出。これらが相まって、迫力が増すのです。シボの凹凸度合いは変わっていないのに、印象が変わるのもミネルバの面白いところですね。
使用頻度から計算すると、実際に使ったのは50日くらい。ここまでスピーディーに、劇的に変化するのがミネルバの特徴です。
ほぼ新品のオルテンシアを比較。色の変化がハッキリとわかりますね。
一年ほど使ったミネルバを動画にしてみました。動画後半では新品のオルテンシアが出てきます。
以下はミネルバリスシオのナポリです。ミッレフォッリエを100日使っての色、ツヤ、キズの変化をご紹介しています。
なお、変化の度合いとスピードは、使い方によって異なります。ご紹介したミネルバボックスはボディバッグ。腰に添えるアイテムだから、持ち歩いているだけで表面が摩擦される。常に乾拭きされる使い方だから、よくオイルが移動する。変化も早い。
使用頻度が少なく、手で触れることが少ないアイテムなら、もう少しゆっくりとエイジングします。パンツのポケットに入れるアイテムは、早く変化します。
他の革に比べて、変化のスピードが速いことは間違いありません。財布やカードケースなど、いくつもミネルバのアイテムを使ってきました。そのすべてが数ヶ月で、色ツヤのエイジングがはっきりと分かるようになります。
言い換えると、「ゆっくりとした変化」を楽しみたいならミネルバを選ぶべきではないのです。ブッテーロや、ブライドルレザー、そしてコードバンをセレクトした方が、幸せになれるはずです。
イタリアの革ならではの、美しいビビッドな色合い。そこからの透明感ある深みのある色合いへの変化。そして光沢。これらを楽しみたいなら、ミネルバしかありません。他の革では味わえない「劇的な変化」こそ、ミネルバの醍醐味なのです。
ツヤの出る、メンテナンスフリーの革
ミネルバシリーズは、牛脚油を染み込ませたオイルレザーです。革には油が浸透しにくい。一方、時間をかけて革の芯まで浸透したオイルは抜けにくく、乾きに強い。
ゆっくり・じっくり油分が内部から表面に出てくるため、ツヤが増して大変美しいエイジングが楽しめます。
初めは落ち着いた印象を受ける革ですが、ギラリとした光沢が徐々に生まれてきます。マットな肌に光沢が生まれ、指の色・カタチを映し出すほどに変化します。
見た目以外のメリットもあります。
財布のように多くの面積を手で触れるようなアイテムは、手から油分が移ります。革の内部からの油と、外からの油によって、適度にオイルコーティングされた状態が保たれます。
ですから、ただ普通に使うだけでいい。わざわざオイルやクリームの追加は不要。メンテナンスフリーでエイジングを楽しめるため、革の手入れが苦手な人にもオススメできる革です。
油分でコーティングされることで、新品のときのサラッとした質感も、ピタリとフィットするさわり心地に変化します。
参考:大量生産される革について
レザーアイテムの90%は、クロムなめし、顔料仕上げのものです。統一感のあるビビッドな発色や、新品時の色を長く楽しめる、見栄えの良い革です。
ただ、エイジングは楽しめません。
革の風合い、色の変化、透明感のある色とツヤ。これらのエイジングは、ミネルバなどの、タンニンなめし、染料仕上げの革でのみ楽しめます。
豊富なカラーバリエーション
豊富なカラーバリエーションもミネルバの特徴。
タバコ、ナポリ、コニャック、ローズ、オルテンシア・・・。これらは、すべて色に付けられた「名前」です。
茶色、赤、青といった、ありきたりな名付けをしないのは、表現が難しい色あいだからでしょう。エスプリが効いたネーミングから、イタリアの陽気な感じが伝わってきます。
ミネルバを使ったアイテムは、豊富なカラーラインナップも特徴。
バダラッシカルロが、彩り豊かな革を作ってくれているから、選ぶ楽しみも味わえます。
ナポリ
いわゆる黄色。淡い色のため、もっともエイジングが楽しめます。
淡い色ほど、シワ、傷が目立つのですが、エイジングすると気にならなくなります。
オルテンシア
青というか、緑というか。不思議な色。
ハバネロ
赤です。マットな赤も深みがグッと増していきます。
エイジング後なら、水シミだって気にならない
水滴が付いたらどうなるのか。検証してみたのですが、色味が深くなったミネルバなら気にならないですね。
新品のときは、濡れたまま放置すると水シミが目立つかもしれません。しかし、エイジング後なら大丈夫。ツヤが現れた表面は、オイルコーティングされている状態です。水にも強くなっています。
キズ付いても修復可能。目立たなくなるから大丈夫
ミネルバはスムースで柔らかな革です。さらに染料仕上げの革だから、キズはどうしても付きます。
「ミネルバ・ボックス」にはシボがありますが、凹凸がほとんどなく、ハリも少ない。つまり、「シボがあるからキズ付きにくい」とは言えません。気づかないうちに、キズはつくのです(シボがたくさんある部位なら、キズは目立ちにくいかもしれないけど)。
気づかないうちに、こんな引っかきキズができるはず。
でも、気にしなくて良い。揉み込んであげれば、すぐに目立たなくなります。
まだ、うっすらと線が残っていますが、これも少しずつ見えなくなっていきます。
キズの修復について、動画にしてみました。
なぜ、キズが消えるのか?
それは、染料で染められ、オイルを含んだ革だから。
革の芯部に浸透している染料とオイルが、圧をかけることで革の中を移動します(「プルアップ」と呼ばれる現象)。毛羽立ちや、白い線のように付いたキズが目立たなくなるのです。気負わず、ガシガシ使ってこそアジのでる革なのです。
ちなみに、「顔料仕上げ」の革ではキズは修復できません。表面に色を吸着させているため、キズ=顔料の剥がれだからです。
ミネルバのタンナー
フィレンツェに居を構える 小さなタンナー
イタリア トスカーナ州 フィレンツェは、昔から革工業が盛んな地域。数多くの革の工場(タンナー)が存在しています。
ミネルバを作るタンナー、バダラッシ・カルロ社(Badalassi Carlo)も、トスカーナに居を構えるタンナーのひとつ。
創業者はカルロ・バダラッシィ。元々レザークラフトの講師をしており、その中で培った理論と技術を「革づくり」で証明するために起業しました。バダラッシ・カルロ社の誕生です。
伝統的なタンニンなめしの革づくり
バダラッシ・カルロ社は、創業から40年以上にわたって、伝統的なバケッタ製法による「フルベジタブル タンニンなめしの皮革」を作り続けています。
時間をかけてなめし、染料を染み込ませた革は、自然な風合いに仕上がります。透明感のある色合いが美しい。
バダラッシ・カルロ社の作るミネルバは、イタリアの「本革組合(The Genuine Italian Vegetable Tanned Leather Consortium )」に認定されています。本物のタンニンなめし革をつくるタンナーとして認められているのです。
ちなみに、世界に流通するほとんどの革は「クロムなめし」。時間をかけずに量産できる製法です。
タンニンなめし革は、革全体のわずか10%ほど。革づくりの本場フィレンツェに行って、さまざまな店を見てまわりましたが、「タンニンなめし」の革製品は、ほとんど販売されていませんでした。革好きのための革なのです。
ミネルバを使った財布
はじめてのミネルバなら、オススメは財布。カバンと比べると革の使用量が少ないため、安価ですし、革の手触りとエイジングをもっとも楽しめます。
多くのブランドが取り扱う革ですから、本ページでは機能性や上質さを切り口に、厳選したブランドを紹介します。
ミネルバリスシオ
エムピウ ミッレフォッリエⅡ P25
1枚のリスシオをぐるりと回しこむように使い、独特なフォルムに仕上げた逸品。どこに触れても、リスシオの滑らかな感触を楽しむことができます。
リスシオを利用しているカラーは、
tabacco、black、grigio、napoli、cognac、sabbaの6色。
エイジングを楽しみたいなら、淡いカラーのnapoliがおすすめ。
以下は、napoliの経年変化です。
この色とツヤの変化こそ、ミネルバに惚れた理由。深まっていく色味の中に、透明感や革の風合いを感じられる。ホンモノの革だけで味わうことができる醍醐味です。
変化を抑えめにしたい方は暗めのカラーをチョイスしてください。
ミッレフォッリエは、色によって使う革が異なります。
roseとnavyがミネルバ・ボックスを使っています。
リュテス マネークリップウォレット
リュテスは個人工房だから量産できないし、店舗でも見かけることもない。けれども、日本でもっとも上質な財布のひとつです。細部まで丁寧につくられた財布ばかり。所有欲を満たしてくれます。
参考:リュテス コンパクトウォレットのレビュー
参考:リュテス マネークリップのレビュー
リュテス コンパクトウォレット
こちらは二つ折り財布。内部構造が独特です。
内装にミネルバ・リスシオが使われた、贅沢な仕立てです。
ココマイスター マットーネ オーバーザウォレット
リスシオのイントレチャート(編み込み)が美しい財布です。
細く断裁した革を織り上げて作っているため、一般的な製法と比べると2倍の革を使うため、贅沢な財布です。
エイジングが進むことで編み込まれた部位に陰影が生まれる。立体感が増し、よりいっそう美しくなります。より美しく変化するようにデザインされているのです。
リスシオを使った、編み込みの財布は本作以外にはありません。
参考:ココマイスター オーバーザウォレットのレビューを見てみる
ココマイスターはミネルバを使った財布のラインナップでは日本一です。たくさんあるので、興味があればこちらをご参照ください。ミネルバを使った財布だけをセレクトし、その特徴を紹介しています。
https://func-wallet.click/summary/cocomeister-mierva-wallet-sumally/
ミネルバ・ボックス
ココマイスター マルティーニ オーモンドウォレット
ミネルバボックスを使用したオーソドックスな長財布。内装も含めて、すべてミネルバボックスで仕上げた贅沢な逸品です。
どこを見ても、どこを触れてもミネルバボックスの上質感を味わえる、まさに上質な財布です。
ナッパネビア
safuji ミニ長財布 ガイド納富モデル
霧がかった独特の表情。これを楽しめるのは数ヶ月です。ロウが取れるとこんな感じ。
手で触れる外側は、革本来の色になっていきます。
ちなみに、手で触れることが少ない内装は1年使ってもロウが残っています。
ナッパネビアは流通量が少ないそうで、非常に珍しい。エムピウ、LAST CROPSなどが、過去にラインナップしていたのですが、素材の安定供給ができなかったため、デッドストックとなっています
参考:safujiのミニ長財布 ガイド納富モデルの紹介とレビュー
まとめ
使えば使うほど、味わい深くなるミネルバシリーズ。
普通に扱うだけで、自分の色に変わっていくその様に、愛着も増すはずです。
油分の多さで半永久的にしっとりしているため、オイルケアも不要です。
他のタンナーの革では味わえない、しなやかさ、エイジング、見た目の美しさを楽しめる上質なレザーといえます。
財布を買い替えるときは、ぜひミネルバシリーズから選んでみてはいかがでしょうか。