ホーウィン社と、新喜皮革社は、上質なコードバンを作るタンナーです。
では、どちらのコードバンが良いのか?
これは、判断が難しい。まったく違うからです。
そこで本ページでは、両社のコードバン製品を30以上使ってきたコードバンマニアの視点で、それぞれの特徴、メリット・デメリットをわかりやすく解説します。
ホーウィン社と新喜皮革、どちらのコードバンを手に入れるのが正解なのか。決着をつけましょう。
コードバンについて
本ページでは「コードバンの特徴」は解説しません。詳細に知りたい方は、以下のページをご覧ください。
=>コードバンとはどういった皮革なのか。そのメリット・デメリットに鋭く迫る
世界最高品質のコードバンを作るタンナー
ホーウィン社と新喜皮革、両社のコードバンついて解説します。
ホーウィン社について
ホーウィン社(Horween Leather Company)は、アメリカのシカゴに居を構える、1905年創業の老舗タンナーです。
ホーウィン社とコードバンの歴史を、ご紹介しましょう。
コードバンはスペインで生まれた革と言われています。その後アメリカにコードバンの生産技術が渡りましたが、多くのタンナーは廃業してしまいました。そういった中、今日もコードバンを作り続けているのがホーウィン社です。コードバン裏にスタンプされた創業年(1905年)は、100年以上にわたり上質なコードバンを作り続けてきた証です。
世界中で愛されるコードバンを作るタンナーであり、「ホーウィン社 シェルコードバン」がブランド化しています。
シェルコードバンの希少性
ほとんどの革は「クロムなめし、顔料仕上げ」で作られています。数日で作ることができるため安価に量産できます。だから安価な製品で使われることが多いんですね。
ビビッドな色合いで「新品のときの表情」を長く楽しめるのが特徴です。一方、革の風合いや透明感は控えめ。また、色・ツヤが変化するエイジングをほとんど楽しむことができません。
一方、シェルコードバンは、6ヶ月もの時間をかけて作られています。
ちなみに、ホーウィン社の代表作に「クロムエクセル」という革があるのですが、こちらは30日で完成。コードバンは時間がかかる革なのです。
コードバンは「希少な革」としても有名です。2012年には原皮の供給がストップして、一切の生産ができなくなったほどです。日本有数の革工房でさえシェルコードバンのアイテムを限定販売していたり、売り切れ担っていることが多いのは「シェルコードバン」を確保できないからです。
ホーウィン社のシェルコードバンの特徴
動画
色、ツヤ、質感などが伝わると思います。
最初からギラリと光る表情
たっぷりとオイルを含んでいるのが特徴です。
やわらかく、しなやかな質感。ツルツルとした表情なのに、手にしっとりとフィットします。新喜皮革のコードバンより油分が多いことが触れた瞬間にわかります。
ラフな表情
表情は、「ラフ」。色合いは均一ではなくムラがあります。
淡い色のコードバンだと、ムラが目立ちます。1枚のコードバンの中に、さまざまな濃淡があるのです。
1mmに満たないのですが、ピンホールと呼ばれる毛穴もあります。血管の跡も残っていたりします。
このラフ感こそが、ホーウィン社シェルコードバンの特徴です。自然な風合いとギラリとした光沢があいまった表情は、まさに威風堂々。
あらゆる空間で人目を引く、主張の強い革です。それでいて品のある佇まい。これが、ホーウィンの魅力だと思います。
言い換えると、コードバンに「均一な美しさ」を求めるのなら、ホーウィン社を選ぶべきではありません。新喜皮革をセレクトした方が、きっと満足できるはずです。
革の作られた時期、ロット、馬の個体によっても違いがあります。たとえば、#4(ナンバー4)は2トーンの個体でした。財布の中央で色合いが変わっていますね。
同じ色でも個体差があります。ココマイスターの財布と、WILDSWANSのキーケース。どちらも#8(ナンバーエイト)と呼ばれるカラーのシェルコードバンです。エッジの光沢が美しいですね。
どちらも同じように見えますが、これは遠目でのルックス。アップで見てみると、色合いや、表情が違います。
どちらが良いということではありません。どちらも美しく変化していきます。荒々しい風合いも含めてエイジングを楽しみたい、そんな方におすすめできるコードバンです。
写真ではわかりにくいかもしれません。シェルコードバンの#8を以下の動画で比べています。
ちなみに、ラフな質感は最初だけ。
ホーウィン社のシェルコードバンは、革の芯まで浸透させる、染料仕上げ。さらにタンニンでなめされているため、色は深まり、ツヤも増していきます。表面もさらにスムースになっていくため、毛穴も目立たなくなります。
新喜皮革について
日本が世界に誇る、創業1951年のタンナー。 姫路にある、馬革を専門とするプロフェッショナルです。
コードバンの原皮はほとんどがヨーロッパの農耕馬です(サラブレッドのような筋肉質な馬、ポニーなどの小さな馬からは採取できません)。
すべてのタンナーが貴重な原皮を手に入れることはできません。日本で原皮からコードバンを作るタンナーが、新喜皮革です。
新喜皮革のコードバンの特徴
新喜皮革は、さまざまなコードバンをラインナップしています。順にご紹介しましょう。
- オイルコードバン
- 蝋引きコードバン
- 顔料コードバン
- マットコードバン
オイルコードバン
よく使われているコードバン。百貨店で販売されているのはこちらが多いです。透明感と光沢があります。
ホーウィン社のコードバンよりもムラが少ないのが特徴。ホーウィンコードバンはキズや毛穴が目立つ部位があります。一方、新喜皮革はツルリとした表情です。ザラつきもなく、サラサラとした肌目。日本らしい、丁寧な仕上げです。オイルコードバンは繊細な光沢が無数に散りばめられたような表情。オイルコードバンが最も繊細で高級感があるように思います。
ホーウイン社よりハリが強く、カッチリとした質感です。硬めの質感が好きなら、新喜皮革のコードバンが気にいるでしょう。
新喜皮革のオイルコードバン バーガンディの動画です。色、ツヤ、質感など参考になると思います。
蝋引き(ロウビキ)コードバン
コードバンにロウ(ワックス)でコーティング加工したコードバンです。
ブライドルレザーのブルームとは、雰囲気が違います。表面にうっすらとロウ引きをほどこしただけとのこと。実際、すぐにロウが取れました。動画では、ワックスを強制的に落として、どのように表情が変化するかを紹介しています。
顔料コードバン
顔料仕上げはコードバンの表面に、コーティングするように色を塗ったもの。水シミやキズにも強いのですが、色、艶はほとんど変わりません。
ランドセルなど、乱暴に扱われる製品に使用されます。雨に濡れてもオイルコードバン、蝋引きコードバンのように水ぶくれができたりしません。もっとも丈夫な加工が施されています。
マットコードバン
マットな表情のコードバンもあります。
マットなコードバンの真髄は、エイジング。とろりとした陶器のような光沢を身にまといます。変化を楽しみたい人にオススメ。ただ、残念ながら現在はほとんど作られていません。
レーデルオガワ社について
コードバンはバツグンの輝きを放つようにイメージされるかもしれませんが、その風合いや、光沢の度合いは「仕上げ」によって大きく変わります。
レーデルオガワは「コードバンの仕上げ」を専門とする企業です。
新喜皮革のコードバンに、染色、艶出しなどの仕上げを施して完成させる「仕上げのプロ」です。バツグンの光沢と透明感のある肌目は、レーデルオガワ独自の「アニリン仕上げ」という技法によるもの。
新品のときは「マット」な表情なものもある(最近はあまり見ないですね。光沢のあるコードバンが多いです)。ツヤは抑えられています。ただし、マットな表情は最初だけ。使うほどに光沢が増すエイジングを楽しむことができます。
レーデルオガワのコードバンは、日本有数の革工房、キプリス、GANZO、クレバレスコなどで採用されています。品質の裏付けとして十分でしょう。
以下の動画はレーデルオガワ社コードバンのブルーです。
ホーウィンVS新喜皮革。どちらが優れたコードバンなのか
先に結論を言います。
ホーウィン社と新喜皮革のコードバン、どちらをセレクトしても満足できます。
表情、光沢感などの違いはありますが、どちらもコードバンの魅力を堪能できるからです。
日本有数の革工房が、両社のコードバンを使い分けてシリーズ化しているのは、どちらも最高峰だからです。
両者のコードバンは特徴が違う。私がNo1を決めるのはおかしな話です。どちらが良いか?ではなく、「気に入った方」をセレクトして間違いありません。
コードバンの違いをまとめると、以下のとおり。
ホーウィン | 新喜皮革 | |
---|---|---|
光沢 | ★★★ | ★★ |
透明感 | ★★★ | ★★ |
色ムラ | ★★ | ★ |
エイジング | ★★ | ★★★ |
なめらかさ | ★★ | ★★★ |
やわらかさ | ★★★ | ★ |
耐久性 | ★★ | ★★ |
レア度 | ★★★ | ★★ |
価格 | ★★★ | ★★ |
※新喜皮革とホーウィン社のコードバンで作られた、財布、キーケース、ベルトなどを使い比べてみた主観で★を付けています。
各項目について、見ていきましょう。
光沢
ホーウィン社はギラリとした光沢を最初から身にまとっているものが多い。ただ、個体差があります。ホーウィン社のシェルコードバンにはグレード(等級)があり、大きさも違うし、部位、ロットによって光沢も違います。
ホーウィンシェルコードバンのアイテムは20ほど所有しています。それぞれ光沢にも差があります。また、全体的に新喜皮革のコードバンよりテリ感が強いです。
ギラリというか、ヌラリトいうか。最初から迫力のある光沢です。
一方、新喜皮革のコードバンは均一で、繊細な光沢です。部位やロットによる差も少ないです。
なお、使い込むことで、どちらのコードバンも光沢が変化します。
最初からツヤのある光沢を楽しみたいならホーウィン社を。マットな質感から、変化する様を楽しみたいなら新喜皮革をセレクトしましょう。
透明感
新品のときは、ホーウィン社のコードバンが抜きん出た透明感です。
レーデルオガワのコードバンは、マットな仕上がりもある(使うほどに透明感が増してくるので、マットな表情は最初だけです)。
光沢があるレーデルオガワのコードバンです。
色ムラ
ホーウィン社のコードバンは、色ムラがあります。自然な風合いが好きなら、気にいるはずです。
淡い色のコードバンほど、色ムラが顕著です。
一方、新喜皮革の方は、均整な色合いです。特にレーデルオガワによって染色されたコードバンは、みずみずしい透明感のある色合いです。
繊細で、奥行き感のある仕上がりは、日本のコードバンの特徴ですね。
エイジング
「エイジングとは何か?」。さまざまな革のエイジングがありますので、詳細に知りたい方は、以下をご覧ください。
参考:革のエイジングとは何か
本ページでのエイジングは、色、ツヤなどの「変化の度合い」とします。どちらが「より変化するか」で比べましょう。
結論から言うと、より変化が顕著なのは、新喜皮革のコードバンです。
特にマットな質感の新喜皮革コードバンは光沢の変化を最大限楽しむことができます。ギラリと輝くように変化していく様を、もっとも味わえます。
例として、新喜皮革のコードバンの変化をご紹介します。こちらは、新品のとき。スムースでマットな表情に、微細な光沢を帯びた表情です。美しいですね。
そして、300日ほど持ち歩いたもの。
陶器のようなとろりとしたツヤが生まれています。これが、コードバンでしか味わえないエイジングなのです。
4年以上経過。カタチが変化したコードバンはなんとも言えない光沢を見せてくれます。
一方、ホーウィン社のコードバンは、最初からツヤ感があります。これが更に増していきます。
以下は、2年以上使った#8の動画です。小キズは付きますが、ヌラリとしたツヤ、迫力が伝わると思います。
色の変化について
ブラックなどの「濃い色のコードバン」は、色の変化はあまり感じられません。これは新喜皮革とホーウィン、どちらのコードバンもです。
色の変化も楽しみたいなら、淡い色のコードバンをセレクトしましょう。
色の変化、濃淡を楽しめます。
なめらかさ
ホーウィンは自然な風合いを残した仕上がり。一方、新喜皮革は均一な表情になるように磨きをかけています。どちらかというと、新喜皮革の方がスムースです。
写真はレーデルオガワのコードバンです。
ホーウィン社のコードバンは、ラフな仕上がり。「ピンホール」と呼ばれる毛穴があったりもします。
ただ、ピンホールは気にしなくてよいです。コードバンは目に見えない微細な凹凸が残っているのですが、使うほどにその線維が寝ていきます。次第になめらかに、よりスムースな表情に変わっていくため、気にならなくなります。
やわらかさ
ホーウィン社のシェルコードバンはたっぷりとオイルが含まれているのでしょう。ホーウィン社のコードバンの方が柔らかいです。ハリはありつつ、ふっくらとした柔らかさも楽しめます。何というか、触れていて気持ちが良い。
新喜皮革は、もう少しハリがある感じですね。薄くしてもカチッと硬い質感です。
ふっくら・オイリーな質感を味わいたいなら、ホーウィン社を。
カッチリといた質感がお好きなら、新喜皮革が良いと思います。
ただし、「硬い・やわらかい」は、「コードバンだけ」で考えても意味がありません。なぜなら、ほとんどのコードバン製品は、コードバンと他の革を組み合わせて作られているからです。
革を張り合わせることで、財布が硬くなります。つまり、やわらかさ(ハリの度合い)は、使用する革、厚みなどによって変わります。
同じブランドで、同じ財布がホーウィン社と新喜皮革社でラインナップされている場合は、硬いのが好きなら新喜皮革を選んだほうが良いですね。
水への耐久性
キズや水への強さです。
どちらも水に弱い。水が付着すると、数秒で浸透し、染みができます。写真はホーウィン社シェルコードバン。ブラックのような濃い色でも、色とツヤが変化してしまいます。
なお、水シミができても、メンテナンスにより光沢は復活します。
キズへの耐久性
キズにも弱い。強くひっかくキズの場合、もとがスムースなだけに目立ちます。
新喜皮革やレーデルオガワの方が、キズがつきにくいと思います。
レア度
圧倒的にホーウィン社です。シェルコードバンの希少性は群を抜いています。
新喜皮革のコードバンは、販売している革屋が多い。
一方、ホーウィン社のコードバンは、取り扱いが少ない。
生産が少なく希少なこと。また、世界のトップメゾンが採用する革ですから、流通量が圧倒的に少ないのでしょう。
日本有数の革工房でさえ、ホーウィン社のコードバン製品は売り切れていることがほとんどです。また、土屋鞄などトップクラスの革工房でさえ、ホーウィンのコードバンを取り扱っていません。安定した供給が期待できないためでしょう。
日本には50以上の、素晴らしい革工房があるのですが、ホーウィン社のコードバンを使った財布を、定番アイテムとしてラインナップする工房はとても少ない。二宮吾郎商店、GANZOくらいでしょうか。
その希少性と、高価なことから人と被ることがまずありません。特別感は、やはりホーウィン社がダントツです。
価格
ホーウィン社のコードバンの方が高価です。ちなみに、あらゆるスムースレザーの中で、もっとも高価です。
ホーウィン社のコードバンの価格は上がり続けています。大幅な円高にならない限り、値段が下がることは無いでしょう。ホーウィン社のコードバンを手に入れるなら、早めにゲットした方が、安く手に入ると思います。
おすすめはどちらか
ホーウィン社の方が、迫力があり、存在感はバツグンです。あらゆるシーンで、人目を引く皮革といえます。人と違うものを手に入れたいなら、ホーウィン社をセレクトした方が幸せになれると思います。
新喜皮革も十分に魅力的。ホーウィン社よりも安価ですから、初めてのコードバンならまずは新喜皮革をセレクトしてみてはいかがでしょうか。