コードバン専門ブランド「無二」とは何か。職人、宮崎泰二氏 ロングインタビュー

日本有数のブランドが取り扱う、最高級素材コードバン。
そのコードバンを専門とする、ひときわ異彩を放つブランドが『無二(むに)』です。

革の発注から制作まで、すべての工程を革職人である宮崎泰二(みやざき やすじ)氏が行う、個人工房。店舗販売を一切していない秘密のブランドです。

では、無二とは何か。

アトリエにお邪魔して、宮崎氏とお話することができました。
本ページでは4時間にわたるインタビューで分かった、無二のコダワリ、特徴についてご紹介しましょう。

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イントロダクション

—無二の特徴やコダワリなどを聞かせていただきたいと思います。よろしくお願いします。

こちらこそ。よろしくお願いいたします。

無二の誕生

—宮崎さんの革職人になる経緯などを、お聞かせくださいますか。

最初から革の仕事をしていたわけではないんです。

革職人になる前は、石川県でインテリア雑貨店を立ち上げて運営していました。店舗運営も手探りな中、リーマンショックがあり、物販・店舗運営の厳しさを経験しました。当時の「何でも屋さん」スタイルでの厳しさを痛感し、店舗運営を辞め、革製品の製作に集中する方へシフトチェンジしました。

革製品を学び始めたのは2005年ですね。当時はレザークラフトキットやYoutubeもなくて、独学で始めたんです。いいなと思った革製品は買ってみて、使ってみて、壊れたら直して、構造を理解するために分解したり。たぶん、僕と同じくらいの年代で独学を始めた革職人さんは、同じように勉強していたんじゃないかな。

ただ、ずっと一人で学んでいたわけではありません。恩師に出会い、いろいろな技術を教えていただきました。

— その後、コードバンを専門とする、無二を立ち上げたのでしょうか。

最初からコードバンにこだわっていたわけではありません。厚みのあるヌメ革で仕立てるバイカーズウォレットも作っていましたし、クローム鞣し革、クロコダイルなどのエキゾチックレザーなども触っていましたね。

いろいろな素材を扱ってきた中で、コードバンだけは、どこか「異素材」に感じました。ハリ、ツヤ、その素材感からは想像できないしなやかさがある。扱わずにはいられない衝動に駆られた感覚を、今でも覚えています。

コードバン専門ブランドとしての製品作り、つまり無二の立ち上げは、2015年ですね。無二も石川県ではじめたブランドです。

— なぜ東京に拠点を移されたのですか?

ビジネスとして難しいと感じたのも理由のひとつですね。無二は(他ブランドと比べると)安くありません。手を加えた価値を盛り込んで値付けしているわけですが、コダワリを説明させて頂いても、ご購入までたどり着けない事が多かったんですよね。

東京に通っていたのですが、無二の「ウケ」というか「表現のしどころ」を肌感覚で実感していました。台東区には多くの職人さんがいてモノづくりの情報も集めやすい。素材もいいものが集まる。東京で職人として活動した方が、より良い製品づくりに集中できると思いました。あと、競争の地勝負したいというのもありましたね。

— 東京にきてからは順風満帆だったのでしょうか。

とんでもないです。東京に来たときは、ほぼ無一文でしたね・・・。

現状は1年以上お待ちいただく状況でオーダーいただいているのですが、それで商業的にはトントンといったところですね。

ラウンドファスナー長財布を1つ作るのに、2週間くらいかかるんですよ。それでは食べていけない。だから同じパーツ作成を並行するなど工夫してるんですけど、月産で6〜7本がやっとなんです。ラウンドファスナー以外にも作っているんですけど、その製品を作るのも僕なので、一月あたりの生産を増やすことはできないんですよね。

コードバンも数年前から高騰していますし、内装の素材も国産サドルやイタリアの革を使っています。タンニンなめし革は高価なので、まだまだ儲かってるとは言えないですね。

1年以上のオーダー待ち。無二の生産について

— 今の制作状況や納期について教えてください。

(2019年6月の時点では)ラウンドファスナー長財布で1年半。コインケースなどの小さなアイテムで半年ほどお待ちいただいています。

2018年3月のTV放送から1ヶ月で、100件ほどオーダーをいただきました。
TV放送の直後は「なぜ数ヶ月もかかるのか?」とお問い合わせいただくことも多かったのですが、最近は無二の生産スタイルと納期に納得いただいた上で、オーダーしてくださる人がほとんどで嬉しい限りです。

現在は1年半ほどの納期があることを納得いただいたうえでオーダーを受けています。

— もっと早く欲しいといった声もあるのではないでしょうか。

大変申し訳無いのですが、一人で制作すると決めているため、これ以上のスピードアップは難しいんです。

たとえば、あるパーツ作成を手伝ってもらうことで、もっと早くお届けできるかもしれない。でも、僕以外が携わった時点で「無二」ではなくなる。2015年に無二を立ち上げたとき、ひとつひとつの製品に100%携わることをブランドコンセプトにしたんです。

だから1年以上の納期になってしまうんですけどね・・・。お待ち頂いているからプレッシャーはあるんですけど、自分が納得していない製品はご提供できません。「無二の製品」にご満足いただければと思って、僕の持つ技術を全力でぶつけています。

無二の販売方法について

— 無二の製品はどこで買えるのですか?

無二の公式サイトやメールでオーダーを受けています。どこでオーダーいただいても、順番待ちいただくことになります。

Mens Leather Storeさんなら、すぐにご購入いただけます。ただ、申し訳ないのですが本数は出せていないので、在庫があればという状況です。

—店舗で販売されていないため製品を見ることができないですよね。高価な製品だから選びにくいかなとも思うんです。私なら「見てから購入を検討したい」と考えてしまうのですが。

店舗に立つと、お客様とお話をする時間も増えます。少しマイナスな表現になりますが・・・、たくさんの時間を掛けてお話させて頂いても、すぐにご購入いただけるとは限らないわけです。お客様が決めかねるのは決してマイナスな行為ではなく、僕自身が取り組んでいることをご理解いただくための熟考期間だと思います。

ただ、出来るだけ製作に時間を費やしたいとも思ったんですよね。

時間は有限だし、僕にしか作れない製品がある。だから、「職人としての働き方」に舵を切りました。余裕ができるまでは店舗販売はしないと決めたんです。

それと「モール」的な売り方はしたくなかったというのがあります。他ブランドと横並びになると、やっぱり値段先行で比べられると思うんですよ。それは避けたいですし、出来るだけ製品のプロセスを感じて欲しいと思っています。

—私はいくつもコードバンの財布を持っています。ちょっと言いにくいのですが、無二は他ブランドと比べると高価ですよね。たとえば「コードバン 財布」で検索すると、さまざまな財布が出てくるのですが、そこで「無二を選ぶポイント」などはあるのでしょうか。

値段ではなく、中身で選んでいただければと思っています。

無二では新喜皮革さんのコードバンを使っています。他ブランドさんも同じコードバンを使って「同じようなカタチの財布」をラインナップしていますし、無二よりも安い財布がほとんどですね。

ここで、値段だけで比べられたら無二のお客様にはなっていただけないと考えていますし、正直それでいいと思っています。

無二のような個人工房の場合、大手ブランドと同じステージに立てないんですよ。あるブランドが4万円だからといって、3万8千円に値下げするとか。ちょっといいものを作って4万2千円にするとか。そんな勝負をしても、食べてけないですからね。

だから、無二は「中身」で勝負する。凄くいい製品、つまり、安心して永く使える製品として選んでもらう考えですね。

ただ、店舗がないため「手に取って見てもらうこと」はできません。だから「中身」を伝えるためにBlogでしっかりとコダワリを書いてます。興味を持った人はBlogを見てくれていて、無二のプロセスに納得・共感してくださっているのではないかと思います。結果、1年半待ちでもオーダーを頂けているわけで。本当に感謝しています。

— ブランドロゴが外装にないのは、中身で勝負しているからでしょうか。

はい。ブランドロゴは内装に型押ししているだけです。ブランドを前面に出す必要はないと思っています。なぜなら、使い勝手、カッコよさ、耐久性などはブランドロゴから出るものではないからです。

メジャーになると「無二のブランド」を前面に出した方が売れるようになるかもしれない。

ただ、意味がないんです。繰り返しになりますが、一人で製作できる数には限界があるため量産できません。また、品質を保てないリスクもあります。それでは無二の意味がないんですよね。お客様には、一品生産スタイルの細かい点にまで手が行き届いた製品づくりに共感していただけていると思っていますので。

コードバンについて

—コードバンはどんな色があるんですか。

ブラック、ブラウンは昔からやってます。ご年配の方はこちらがお好きだと思います。
同じ黒でも、仕上げによって表情やエイジングも違うんですよ。

染料を使ったもので、ブラック、ネイビー、バーガンディ、レッド、ナチュラル、キャメル、レッドブラウン、ネイビー、オリーヴですね。この中からいくつかを、定番カラーとしてラインナップしています。たぶん100枚くらいはあるんじゃないかな笑。これでも厳選した色味に絞ってるんですよ。

— 1枚のコードバンから、ラウンドファスナーなら2つくらい作れるのでしょうか。

う〜ん・・・。そうとは限りません。こうやって見ると、面積としては2つ採れそうに見えますよね。

でも、フチの部分は使えないことも多いんです。コードバン層ではない部分が含まれていることがあるので。

フチを除いても、すべて使えるわけではありません。繊維の向きで、伸びやすいところがあるからです。部位によって耐久性が変わるので、丈夫なところだけ使います。長く使えない製品を作ることはできません。

—1枚から1つしか作らないこともあるんですか?

はい。たとえば、ラウンドファスナー用にコードバンを採ったあと、コインケースを作ることができる面積は残ります。けれども、そのコードバンが丈夫な部位とは限りません。もっというと、コードバンを裁断して裏張りした後で、ギュッと曲げるテストをするのですが、ここでNGと気づくこともある。

(※ここで、作成中のコインケースを折り曲げて見せてもらっています。)

折り曲げた箇所に、小さなヒビのようなものがたくさん見えていますよね。繊維質が少し粗い部分なんですが、見た目もきになるし、長く使うことはできないかもしれない。だからもったいないけれど、これは使えません。

— 淡い色のコードバンだと濃淡差が顕著ですね。私は濃淡のあるコードバンも大好きなんですけど、均一な表情が好きな人もいますよね。コードバンの色調や部位は選べるのですか。たとえば、淡いキャメルがいいとか。

お選びいただけません・・・。「製品として長く使えること」を基準に部位を決めています。

ただ、色のイメージ違いはあまり起きないと思います。無二のBlogで、濃淡やムラがハッキリと出た製品をお見せしているので。色合いについては納得いただけるかと思います。

オイル染めコードバンはロット毎にバラツキが出ます。同じ色でも色調が違うし、1枚のなかでも濃淡があったりするわけです。その中から「お気に入りを選んでください」を始めると、相談が必要になるし、お気に召された部位でも、耐久性が高いとは限らない、そうなるとまた別のコードバンを提案することになる。とても時間がかかります。

今後、カスタムオーダーとしてお受けできる日が来るかもしれませんが、今の製作状況では対応できないんです…。オーダーの構想はありますので、今後にご期待いただければと。

無二ラウンドファスナー長財布を見て

— 内装は、淡いヌメ革なんですね。理由はあるのですか。

コードバンの色に合わせて、淡いヌメ、ブラウン、黒、赤を決めています。
今お見せしているコードバンはネイビーなので、内装には淡色のヌメ革を使っています。これはネイビーとのコントラストがキレイだからですね。

— 財布はミシン縫いですか。

手縫いとミシン、パーツによって使い分けています。

内装はミシンです。ダダダッシと早く縫うこともできるんですけど、ステッチが美しく見えないんですよね。革の表裏どちらから見てもステッチが美しくなるように、ひと縫いずつゆっくりとやっています。ここもこだわっているところで「手縫いに見えるように」ステッチしています。正直、手縫いとそれほど手間が変わらないんですよね。

一方、外装のコードバンと内装を合わせるときは手縫いです。
財布をピシッとするフォルムに仕立てたり、耐久性を上げるなどが理由ですね。

それから、ラウンドファスナーは構造上、どうしても両サイドにパーツの重なりが集中してしまいます。少し強引にミシンを掛ける事もできますが、そこでミシンを使うとコードバンに「押さえ跡」が付いてしまうんですよね。光に当てないと分からないほどなんですが、一番美しい状態でお渡ししたいからミシンは使いません。

— コードバンを縫い合わせるときの糸色は、何でしょうか。

コードバンと同色の糸を使っています。糸の太さやステッチ間隔、フチからの位置まで計算して、主役であるコードバンがもっとも映えるようにデザインしています。太めの糸を使うことで迫力を生むこともできるけど、クラフト感が出すぎてしまってコードバンとのバランスがあまりよくない。ステッチによる表現ってミリ単位以下の世界なんですけど、無二はそこにもこだわっています。

— どういうシーンで使われることを目指していますか。
カジュアル、ビジネス、冠婚葬祭まであらゆるシーンで使えるようにデザインしています。

たとえばバイカーズウォレットは、エイジングしたヌメ革と太い糸の迫力あるルックスが魅力だけど、利用シーンが限られる。クロコも好きですけど、冠婚葬祭の席で見せるのってどうかな、って思ったりもする。

シチュエーションに合わせて財布を変える男性は少ないと思うんですよ。コードバンを使う理由はここにもあります。品があって、あらゆる空間で使えるんですよね。

10年使える財布を目指して

— 無二の財布を触ってみて思ったのですが、かなりハリがあるんですね。

無二のコンセプトのひとつは、「壊れずに長く使える財布」なんです。10年くらい使える製品を目指しています。

「製品の使われ方」は、僕がコントロールできないんです。たとえば、キーケースはポケットに突っ込んで使われることもあるでしょう。

そういった過酷な環境で使われても、カッコ良さが続くように工夫を凝らしているんです。適所に芯材を入れたり、財布だったら、お札ポケットの入り口の革が伸びないよう仕立てています。美しいルックスが何年も続くように工夫しています。

コードバンやサドルレザーはとても丈夫なんですけど、素材の耐久性に頼りたくはない。何年使ってもクタッとせずに、ピシッとした装いになるように「仕立てる」のが無二の仕事です。

結果として、財布を作りはじめて10年以上経ちますが、リペア依頼はほとんどありません。

ただ、「長く使える製品」というのはジレンマなんですよね。リピーターになっていただきたいのだけど、長く使えば使うほど、持ち主の趣味嗜好も変わる。次に買ってくれる保証もないわけです。

でも、だからこそ、ひとつひとつの製品に全力を注いでいるし、一人のお客様からのオーダーを一期一会だと思って尽くしています。

あとがき

宮崎さんは時計も大好きな方で、革ベルトも作成しています。
(時計や革ベルトの話もしたのですが、長くなりすぎるので本ページでは割愛しています)

コードバンに興味があり、1年以上待つことができるなら、無二を検討なさってはいかがでしょうか。

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