国立商店はガジェット用のレザープロダクトを得意とする日本の革工房です。
国立商店のiPadケース『フラップカバーケース 11インチ』を購入しました。
特徴は以下のとおり。
- iPad ProやSurface Goを収納できる
- Smart Keyboard Folioを付けて収納できる
- Apple Pencilも一緒に持ち歩くことができる
- 英国トーマスウェア社のブライドルレザーを使用
- 色・ツヤが変化するエイジングを楽しめる
本ページではフラップカバーケースの使い勝手、特徴、メリット・デメリット、素材について分かりやすく解説します。参考にしてみてください。
動画
使い方、ブライドルレザー表情、ハリ感など、動画のほうが伝わりやすいかと思います。
以下は1年間使用した、エイジング解説の動画です。新品のブライドルレザーからどのように変化するのか、参考になるはずです。
カタチ、構造
本作はiPadケースです。
※Surfaceも収納できるようです。Surfaceとの組み合わせは本ページでは解説していません。
iPadケースには様々なカタチがあり、それぞれメリット・デメリットがあります。
本作は「スリーブタイプ」にカテゴライズされるケース。
iPadを出し入れするアクションが必要なタイプです。
「サッと使う」機能性においては、以下のような「見開きカバータイプ」の方が優れます。
一方、スリーブタイプのメリットは、しっかりと守ってくれること。
特に本作はフラップがあるため、全方位をガードしてくれる。
外装は国立商店の定番素材、ブライドルレザー(詳細は後述)。大判2枚を縫製した、贅沢なつくりです。2色ラインナップから、ポーチと同じ「グリーン」を購入しました。
マチなしの構造だから、iPadを取り出したらスリムになる。省スペースで邪魔になりません。この薄さでしっかりと弾力があり、ガードしてくれる。革だからこその特徴です。
外周はiPadより少し大きめのサイズ。iPad+Smart Keyboard Folioの厚みは14mm弱。このサイズを収納するには一回り大きいサイズになる。裸のiPadと比べるとかさばります。本作に限らず、コンパクトに持ち運びたいならそもそもカバーを付けるべきではないのです。
入口にフラップが付いているのも本作の特徴です。
Apple Pencilを留めるペンホルダーがついています。
内装はベージュっぽい、かなり明るいカラー。ペンホルダーが黒。ベージュと黒のコントラストが生まれ、ペンホルダーの場所が直感的に分かる。ただ、ベージュは汚れが目立ちやすいため好みが分かれるかもしれません。
素材はピッグスエード。豚革を起毛させた素材です。
スエードやヴェロアをイメージしていただけると近いかと。触れていて気持ち良い。豚革の毛穴が目立たないのもスエードの特徴です(もちろん、よく見れば毛穴があるのだけど)。
使い勝手
iPad Pro + Smart Keyboard Folioの収納
まずはiPadにSmart Keyboard Folioを取り付けた状態で収納してみましょう。
フラップを、ゆるく差し込んだ状態。
フラップの中央がラウンドしているのが伝わるでしょうか。指を添えやすいようにデザインされているのです。親指の腹で支えて、スナップさせるようにして外します。フラップは1回では外せない。2箇所、キュッ、キュッと外す感じ。馴染んでくれば1アクションで外せるようになるかもしれません。
以下は外した様子。フラップに「クセ」がついているため、手を離すとフラップが丸まり、収納スペースを覆ってしまいます。
フラップを広げないと収納できないため、iPad本体でフラップを支えながら(または手で抑えて)、入れることになります。
スルリと収納される。とは言えません。ちょっとキツイ。少しずつ押し込んで収納する感じ。
奥まで入れるとこんなサイズ感。ペンホルダーが丁度見えるくらいです。
取り出すときもスッとは出てきません。ちょっと引っかかるかんじ。左右の端を少しずつ引き出すくらいのフィット感です。
けど、このフィット感で良いのです。
本作以外にも「革のスリーブケース」をいくつも使ってきました。そして、その全てが伸びました。「カタチが変わること」は、革のエイジングのひとつ。避けられません。
以下は、数ヶ月使った別のスリーブ。最初はキツすぎるくらいだったのですが、かなり余裕が出てきました。
素材はブライドルレザーではありません。国立商店のフラップカバーケースが同じくらい伸びるかは分かりませんが、ブライドルレザーの方が繊維密度が高く、強固なためそれほど「伸び」は起きないのではないかと推測します。
Apple製品専用のレザープロダクトを作り続けてきた国立商店ですからね。長期間利用した後のフィット感を計算したサイズでしょう。使い込んだあとの形状・フィット感の変化は、検証しているはずです。
さて、フラップです。あまり長くないのがミソ。操作しやすい。
iPadが収納されると隙間がせまくなるのと、ブライドルレザーのハリもあるから、親指でググッと差し込むようにしてボディに収納します(スルリとは入らない)。出し入れのたびに「フラップを広げる/仕舞うアクション」が必要になります。フラップのないケースと比べると一手間増えるわけで、ここも好みが分かれるところだと思います。
これが嫌なら国立商店の「レザースリーブ」をチョイスした方が幸せになれるでしょう。ただし、Smart Keyboard Folioを装着したまま収納できません。
フラップを奥までしっかりと差し込むと、こんな感じ。
収納すると、少し丸みを帯びたフォルムになる。美しい。
革製品の魅力は「持ち歩きたくなる、触れたくなるルックス」だと思うのだけど、本品はiPadを入れたことによって完成する。ブライドルレザー特有のキチッと感が薄まり、やわらかさが生まれる。
ApplePencilの収納
スリーブの入口、横向きのペンホルダーが備わっています。硬めの生地で、ゴムではなさそう。伸びません。
第2世代のApplePencilが余裕なくジャストサイズ。こちらもスムーズではなく、ググッと押し込んで差し込みます。
縦にして振ってもApple Pencilは落ちてこないホールド力。安心です。
ペンを使わずに、iPadを取り出すときは、取り出す角度によってはペンが干渉することもあります。指にペンがぶつかってしまうのでちょっと気になるかな。先にApple Pencilを取り出した方が良い。
ペンホルダーは取り外せません。Apple Pencilを所有していないなら無用の長物ですね。背面にステッチが入るのも、このホルダーのため。ブルーム(後述)によって糸が見えにくいのですが、糸の色はグリーン。ブルームが落ちたあともステッチは目立たなさそう。
ペンホルダーなしが選べればブライドルレザーマニアに最高の一品になりそうですが、生産管理が増えるでしょうから難しいでしょうね。
Apple Pencilの充電はできない
iPadの側面にApple Pencilをくっ付けると、Apple Pencilの充電できます。
フラップカーバケースのペンホルダーに装着するとほぼジャストフィットだけど、充電できません。
Apple Pencilが奥になるように入れると充電できます。
ペンホルダーの意味がないじゃないかと言われたらそうなのだけど・・・。
裸のiPad Proを収納したらどうなるのか
Smart Keyboard Folioなどを装着していない状態。裸のiPadならスルリと出し入れできます。
ただ、カバーの上下左右に余裕ができてしまう。
ほぼ毎日、iPadをカバンに入れて1時間くらい歩いています。ケースのエッジにも衝撃がいきやすいんですよね。裸のiPadで使い続けると、Smart Keyboard Folioを装着したときと比べて、エッジに大きく曲がりが出るはずです。
フラップはパームレストとして使えるのか?
ケースの上にiPadを置き、フラップに手首を添える。この「パームレスト機能」は本作だけだから、期待していました。
では、本当に使えるのか?
結論から言うと、快適に使えるシチュエーションは限定されます。
(私は、週に5時間ほどSmart Keyboard Folioを使っています。)
広い机で作業するなら、ケースの上には置かないほうが良いです。
狭い机(新幹線や飛行機など)で画面操作や、動画を見る。またはバスや電車など、膝の上に置いて作業をするときは、カバーの上に置いたほうが快適です。
それでは、解説します。
フラップの内側は気持ちの良い素材です。だから手を置くのにはふさわしい。ちなみに、このフラップは他の部位よりも厚みがあります。ギュッと曲げる部分だから、長く使えるように設計されているのです。
しかし、「パームレストとして快適に使える」とは言い難い。惜しいです。
肝心のフラップは「クセ」がついて、丸まってしまう。パームレストとして使うためには、フラップを手前に倒してから手首で抑えるアクションが必要になります。
さて、フラップを倒し、手を置きました。キーボードは快適には使えません。
なぜか?
革の膨らみにより、iPadが浮くからです。
1ヶ月ほど使うと、ケースがフラットではなく、やんわりと膨らみます。
膨らんだ面にiPadを置くため、iPadがわずかに浮きます。キーボードを打つときに本体がブレてしまい、タイピングに集中できません。
なお、これは「革のハリ」にもよるかもしれません。本作は他の革でもラインナップされています(後述)。ブライドルレザーより柔らかい革なら、ブレることはないかもしれません。
また、Apple Pencilを装着した状態で使うときも、気になる人は気になるかも。キーボードを操作するときはApple Pencilは必要ないから、装着したままにしておきたい。しかし、微妙に親指の付け根にペンが触れるのです。
パームレストとして使うことはできる。ただし、快適かどうかは微妙。惜しいです。
特徴
英国ブライドルレザーを贅沢に使用
国立商店はさまざまな「革」を扱っているのだけど、本作では定番のブライドルレザーをチョイスしてみました。
本ブライドルレザーを作るタンナーは、トーマスウェア社(Thomas Ware & Sons)。
イギリスの老舗タンナーです。
ブライドルレザーの表情
いくつもブライドルレザーの製品を手に入れてきましたが、盤面サイズでは本作が最大だと思う。大きさと相まって、表面の迫力がモノスゴイ。
なめし工程において、たっぷりとロウを使うのだけど、そのロウが浮き出た状態です。「ブルーム」と呼ばれる、ブライドルレザーの特徴です。
ブルームの出る度合いは、個体差があります。今回は荒々しい個体です。
ブルームは好みが分かれる表情かと思います。
ブライドルレザーを知らない人が見ると(90%の人が知らないんですようけど)、カビが生えたようにみえるかもしれません。人前で使うのが気になるなら強制的に落とすこともできます。ブラシや粗めの生地で擦るだけでいい。カンタンです。ギラリとした光沢が現れる、「劇的な変化」を味わいたいなら強制的に落とすのが一番ですね。
なお、強制的に落とさなくても、使っていると落ちていきます。よくふれるポイントからブルームが薄れ、緑が見えてきていますね。
つまり、ブルームの表情を味わえるのも最初だけです(ブルームは復活する(浮き出てくる)のだけど。毎日触れるならブルームが再び現れることはないでしょう)。
強制的に落とすのか、自然に落とすのか。
ここは買った人の特権ですからお好きにどうそ。
私はブルームを落とさずに、ブライドルレザーの変化をじっくり味わってみます。
質感について
柔軟に曲がりつつ、ブライドルレザー特有のハリもある。「ブライドルレザーの財布やカバン」をお持ちなら、この柔軟さは少し満足できないかもしれない。カチッと感は控えめです。
世界にはさまざまな革がありますが、その中でもブライドルレザーは最も硬い。
元厚は3mmを超え、ハリが強すぎるため曲げることも難しい。しかし、本作のブライドルレザーは薄くスライスされており、スエード面と合わせても 2mm弱しかありません。
ブライドルレザーのハリと強度を残しつつ、iPadケースとしての耐久性を考慮したギリギリのラインなのかな。
しなやかさで、156gしかない。
毎日持ち歩くわけですから、当然軽い方がいいですね。
あえていうなら、背面のステッチかな。Apple Pencilを持ち歩かないスタイルなら気になるかもしれません。
使うことで変化する、エイジングを楽しめる
1年間、ほぼ毎日使っていました。以下の動画はエイジング結果です。ブライドルレザーがどのように変化するのか、参考になるはずです。
なお、動画のブライドルレザーは、1年間、ワックス・クリームなどによる油分の追加は行っていません。ブラシで払うか、乾拭きだけのメンテナンスです。
仕上げ
ブルームでステッチが見えにくいけれど、縫製はミシンです。
カーブ部分もきれいです。
革のフチの処理(コバ)も仕上げられている。革の断面が切りっぱなしではない。黒っぽい塗料が塗られています。
カチッとした雰囲気に仕上がっている。
国立商店 iPadケースのラインナップ
国立商店から、iPad用のケースは2種類ラインナップされています。
- レザースリーブ
- フラップカバーケース
サイズ、および素材の組み合わせは以下のとおり。
タイプ | 対応するiPad | 素材 |
---|---|---|
レザースリーブ |
|
|
フラップカバーケース |
|
本ページで解説したのは、フラップカバーケース。
Smart Keyboard Folioを収納できるレザースリーブが希望でしたが、ラインナップしていません。また、レザースリーブはカバーを付けていない状態でフィットするようにデザインしているようです。
つまり国立商店からiPadケースをセレクトするなら、カバー(Smart Keyboard Folioを含む)を使うかどうかによって決まるわけです。裸のiPadをフラップカバーケースに入れたいという気持ちもわかります。かっこいいですからね。ただ、前述のとおりフィット感はゆるくなってしまいます。
あとがき
高価なブライドルレザーを大判で味わえる製品はなかなかない。iPadケースなら本作以外にはありません。毎日持ち歩く大切な仕事道具、iPadをキズや衝撃から守り、それでいて革マニアも満足させてくれる製品です。