革職人である松山氏が、革の買い付けから制作まで行う個人工房、three2four。
機能的でユニーク。それでいて上質な革製品を生み出す、お気に入りブランドです。
そのthree2fourからオーダーした財布が届きました。
コンパクトな財布、『SIZ』です。
特徴は以下のとおり。
- ミニL字ファスナータイプ
- カード、お札、コインを分けて収納できる
- カードが使いやすい
- 外装はシェルコードバン
- 内装はブライドルレザー
- 引き手はロシアンカーフ
本ページでは、SIZの使い勝手や特徴について、わかりやすく解説します。
スペック
ブランド | three2four |
---|---|
商品名 | SIZ |
収納力 | ★★★☆☆ |
お札入れの数 | 1 |
お札の枚数 | 10 |
コインの枚数 | 10 |
カードの枚数 | 6 | サイズ | W104 x H98 x D14 mm | 重さ | 86g ※ |
素材 | シェルコードバン、ブライドルレザー |
※素材などで変わる
動画
ユニークな構造、使い方、革の質感が伝わるように動画にしてみました。
形
SIZは「ミニL字ファスナー」にカテゴライズされる財布。
ほぼ正方形で、手のひらに収まるサイズ感です。
カチッとしたフォルムで、薄い。
外装はシェルコードバンでオーダーしました(素材は後述)。
一枚のコードバンで、ぐるりと覆う仕立てです。つなぎ目のないシームレスな構造だから、手に持ったときに縫い目に触れることがない。ダイレクトにシェルコードバンの手触りを楽しめます。
使い勝手
ミニL字ファスナー財布には「ファスナーの引き手」が存在します。開け閉めのときに操作する、使い勝手を左右するパーツ。
この引き手がスゴイ。5mmほどの厚みがあり、しっかりと作り込まれている。
小さいけれど掴みやすい。カッチリと硬いため、グニャリと曲がらず引きやすい。
実に機能的です。
ファスナーはエクセラのよう。
バツグンの美しさと耐久性を持つ、YKK最高峰のパーツです。trhee2fourでは定番なのかな。
さて、一般的なミニL字ファスナーには、中央に「コインポケット」があります。
一方、SIZの内装はこんな感じ。
あらゆる「ミニL字ファスナー」と似ていない。SIZだけの構造です。
仕切りが2つあり、3つの収納スペースに分かれている。
カード、お札、コインを収納して使うことになります。
個人的には、左はカード、真ん中はお札、右側がコインがいいと思う。
詳細はこのあとで解説します。
カード
2種類の収納方法があります。
スリットポケット
中央のスペース、右側の仕切りにポケットが備わっています。
もうひとつ、同じ構造のポケットが左のスペースにも。
縦にカードを入れます。ポケットはスリット状で、マチがない。2枚がMaxかな。
複数入れるとカードが重なるため、選別するためには少し出す必要がある。
「よく使うカード」を1枚だけ入れておく方が、使いやすい。たとえば、メインのクレジットカードを入れておくと、サッと抜き出せて便利。アレコレと選別する必要はありません。出し入れの所作もスマートでカッコいい。
three2fourのプロダクトのいくつかは、「利き手」によって構造が変わります。SIZのスリットポケットの場所も「利き手で決まっている」のかもしれない。ポケットが付いているのは、仕切りの右側だけ(仕切りの左側はフラットで、ポケットはありません)。
マチがないため、指を添えて「スライドさせて引き抜く」ことになる。だから、右手で取り出しやすい場所にだけ備わっているのでしょう。
反対側にもポケットを付けることもできたはず。そうしなかったのは、仕切りが増えると財布が厚くなってしまうからかな。
強度、厚み、ハリ感、使いやすさ。これらのバランスを考えて「右側だけのポケット」に設計したのだと思う。最少限のカードを、最大限に使いやすくするデザインですね。
カード枚数と使いやすさは、トレードオフです。「たくさんのカードを選別しやすい財布」が欲しいなら、SIZは合わないはず。長財布を買いましょう。
3つのスペースに入れる
3つのスペース、すべてにカードが入ります。
私は、左のスペースにカードをまとめて入れています。
カードは、縦でも横でも入るのだけど、横がオススメ。
縦にすると、スリットポケットのカード(よく使うカード)と干渉して使いにくいからです。
1スペースに3〜4枚くらいなら財布に負担がかからない。お札も一緒に入れるなら、カードは減らした方が良いですね。
お札
お札は「二つ折り」してからでないと、収納することはできません。
当然、使うときは伸ばさないといけない。SIZに限らず、ほぼすべてのミニL字ファスナー財布で共通する使い方です。
これが嫌なら、オーソドックスな二つ折り財布、または長財布をチョイスした方が良いでしょう。ちなみに、three2fourからはSIZの構造と似たL字ファスナー長財布、「LIZ」がラインナップされています。LIZを検討するのもよいかもしれませんね。
3つのスペースのいずれかに、お札を入れます。
1つを「お札専用のスペース」としてもいいし。
2つに分けて収納することもできる。
- 一万円札と千円札
- お札とレシート
私は、分けています。
左側には、1万円札。
左のスペースは、カードと兼用ポケットになるため、たくさんのお札とカードを入れるなら選別が面倒に感じるでしょう。しかし、私はMax2万円しか入れないため、そこまで使いにくいとは思いません。「よく使うカード」はスリットポケットに入っているからすぐに使えるし、一万円札もあまり使わないからです。言い換えると、現金派なら、ちょっとキツイかもしれない。
中央のスペースには、千円札と五千円札です。ここにはお札しか入れません。
合わせて10枚くらいが、無理なく収まる。
収納できる枚数は、カードやコインの量とのバランスになります。
お札20枚持ち歩きたいなら、長財布の方が快適だと思います。
コイン
コインは右側。15枚くらいがMAXかな。スリムさを維持するなら、10枚が良い。
一般的なミニL字ファスナーは、中央に「コイン専用ポケット」が備わっています。このポケットが狭くて、深いためコインが見にくい。取り出しやすいとはいえません。
一方、SIZには上記のようなポケットはない。スペースにダイレクトにコインを入れる設計。ポケットに入れるタイプより、ずっと見やすくて、取り出しやすい。
ファスナーテープによって、コインの落下をガードできるため、受け皿のように使うこともできる。もちろん、傾けすぎると落ちます。
私は、右側のスペースをコイン専用にしています。
もっともきれいに収まるし、使っていて気持ち良いからです。
中央のポケットだと、傾けたときにコインが落ちるかもしれない。左のポケットだと、財布を持ち運んでいるときにコインとカードがぶつかって、カードが汚れるかもしれない。こういったことを考えながらSIZを使うのは楽しくない。
だから、私はコインは右側がいいと思うんです。
収納力
上記でご紹介したように、カード、お札、コインをひとまとめにするなら、
カード6枚、お札10枚、コイン10枚くらいが良いと思います。
これくらい詰め込んで、少し膨らむ程度。
シェルコードバンがわずかにラウンドして「より光を反射するルックス」を楽しめる。
内装のブライドルレザーは耐久性が高く、カッチリとしたハリのある革です。そのブライドルレザーをカバーするように、外装に弾力に富むシェルコードバンが使われている。財布に剛性があり、ある程度「無理やり詰め込むこと」もできる。
しかし、私はおすすめしません。
ファスナーテープの幅は1cmほど。ということは、SIZの最適な容量はこの厚みに収まる程度にデザインされているはずだからです。
あと、理屈抜きに、パンパンに詰め込まない方がカッコいいと思うんですよね。SIZのスリムで端正な美しさを堪能できるからです。
まとめ
アイテムを詰め込んだ状態で開いてみましょう。
3つのスペースが自然と広がるから、指でギュッと広げる必要はない。そのままカードやお金にアクセスできる。
革のハリ、ステッチの位置など、強度が出るようにデザインされてるのでしょう。ヤワな感じがしなくて安心感があります。
特徴
世界最高峰の革を贅沢に使用
本ページのSIZは、3種類の革で制作してもらいました。
それぞれの特徴を紹介しましょう。
シェルコードバン
外装はシェルコードバン。
バツグンに高級感のある革です(スムースレザーのなかでは、世界一高価です・・・)。
極めてスムースで、美しい光沢を放ちます。
オーダーした色は#4(Number four)。赤と茶が混ざったような色合い。
#2ほど赤みは強くなく。#8より淡い。そんな色。
#2と#8は持っていますから、せっかくだからと#4でお願いしました。好みの素材、色を使えるのもオーダーの醍醐味ですね。
「革の色」は、光量や照明環境によって大きく変わります。
本ページの写真は暗めに現像しているため、色のイメージがマッチしないかもしれません。あと、シェルコードバンは色のロット差(個体差)がかなりあります。
近似色(と言っていいのかな?)の赤茶系のシェルコードバン、#2、#4、#8の色の違いを動画にしてみました。「明るい空間」と「暗い空間」でそれぞれ撮影しています。SIZの色合いは、動画のほうが実際に近いかもしれない。ご興味あれば是非。
SIZの外装には一枚のコードバンが使われているため、ラウンドしたフォルムが生まれる。光をさまざまな角度から受ける部位だから、シェルコードバンの艶をもっとも堪能できる。この光沢を見るたびに、やっぱりシェルコードバンが大好きだと思うわけです。
キズつきやすいし、水染みもすぐにできるので、「新品の美しさを長く堪能したい」とお考えなら、気を使う素材でもあります。
毛穴もある。
濃淡もシェルコードバンの特徴。はっきりと2トーンに別れた個体でした。
ラフな皮革です。よく言えば天然素材の味わい。悪く言えば雑。
繊維密度が部位によって異なるため、染料の浸透度合いにも差が生まれるのでしょう。色ムラも出るし、個体差もけっこうある。色ムラは、ほぼすべての「タンニンなめし革」にあるのだけど、シェルコードバンは特に顕著ですね。「均一な表情」のコードバンを求めるなら、新喜皮革社のコードバンの方が気にいるかもしれません。
ブライドルレザー
内装はブライドルレザー。
シェルコードバンの#2とマッチする色合いにしたかったので、色はワインでオーダー。
ブライドルレザーは、さまざまなタンナーが作っています。
SIZではトーマスウェア社のものを使っているそう。ブライドルレザーといえば(厚みにもよるけれど)ガチガチの硬さが特徴です。ただ、SIZでは薄く漉かれていて、しなやかに曲がります。それでいてハリもある。
白く見えるのはワックス。「ブルーム」と呼ばれる、ブライドルレザー特有の表情ですね。ブルームがなくなると、艶やかな美しい表情に変わります。コードバンとはまた違った、キリッとしたルックスです。
ブルームの見た目は、個性が強い(見方によってはカビに見えるかも・・・)。気になるなら、生地で拭き取るかブラッシングすることで落とすこともできます。
ただ、使っているうちに自然とブルームは無くなります。ブライドルレザー特有の表情ですから、無理に落とす必要はないでしょう。もちろん、強制的に落とすことで「ガラリと変化する様」を楽しむことができる。どのように味わうかはオーナの特権ですのでお好きにどうぞ。
面白いことに、いったんブルームが落ちても、放置しておくと復活します。ただ、ブルームが再度現れるのには数ヶ月かかかります。SIZを使い続けるならブルームの復活を見ることはできないでしょう(いくつも財布を使い分けているなら、ブルームの復活を見ることができるはず)。
ブライドルレザーは高価なため、オモテ面の素材として使われていることがほとんどです(内装には安価な革を使う)。内装にブライドルレザーを使っているのもSIZの贅沢なポイントです。
ちなみに、SIZのファスナーを開くと、シェルコードバンとブライドルレザーが混ざった香りがします。革好きにはたまらない、ずっとクンクンしていたくなる。
ロシアンカーフ
引き手はロシアンカーフ。
1700年代、ロシアで生産されていたトナカイを原皮とした革。1786年に沈没した船から引き上げたものだそう。海の底に200年以上眠っていたわけで、ちょっと信じにくい話ですね・・・。サルベージ後に塩抜きして、再び鞣したものなのかな。
製法が残されていないようで、現在は作られていない(作ることができない)、極めて希少な革のようです。当時の製法を研究し、ホーウィン社などさまざまなタンナーが「ロシアンカーフを模した革」を作っていますね。
ネットでは様々な画像があり、それぞれ色合いが違います。
比べてみると、SIZでは少し濃い色なのかな。
色は指定しませんでした(松山氏のセンスで決まった)。#2の色と合うように濃い目のロシアンカーフを使ってくださったそう。
ロシアンカーフのような、希少かつ色ブレがある革で「色を合わせて」裁断する場所を決める。こんな贅沢な仕立ても、個人工房だからこそです。
カチッとした質感
ブライドルレザーがコードバンの裏面にも貼られているため、財布本体がカチッとした硬い仕上がりになっています。
はり合わせる革の種類、厚み、芯材の有無。さまざまな要因でハリの強さは変わる。
ここに正解はありません。
たとえば、three2fourのミニL字ファスナー「POCKET」は、シェルコードバンの一枚革が使われています(革の貼り合わせがない)。結果として、「ハリのある柔らかな弾力」という、シェルコードバンでしか味わえない贅沢な持ち心地を楽しむことができる。
言い換えると、シェルコードバン特有の柔らかな弾力を楽しみたいなら、SIZは合わないかもしれない。SIZに限らず、ブライドルレザーなどの硬い革を併用した財布は避けた方がよいでしょう。
仕上げ
コバは黒い染料を使っているのかな。キリッと締まる。
引き手のコバは、革の断面が見える仕上げ。
革と合うようにコバの仕上げ剤を変えているのかもしれません。
コードバンが主役となるように、ステッチも色のトーンを合わせてくれている。コードバン好きには嬉しいところです。
あとがき
SIZのような「新しい構造」の財布を手に入れるとワクワクする。「財布という道具」を職人がどのように考え、なぜこのデザインにしたのか夢想する。構造を観て「どうやって使うのか」をイメージする。
「財布と遊ぶ時間」です。
SIZ完成の連絡を受けたとき「使い方の動画」を提示いただいたのだけど、本ページを書き上げるまでは見ないと決めた。なぜなら「財布と遊ぶ時間」は、動画を見てしまったら100%楽しめないからです。
結果として、「公式動画」とは異なる使い方を紹介することになりましたが、それもまた当サイトの価値だとも思うわけです(公式サイトと同じことを書くなら、意味がない)。
人によって使い方が変わる財布なのかもしれません。ぜひ自分なりの使い方を探求してみてほしいです。
まとめます。
「ミニL字ファスナー」はさまざまなブランドからラインナップされているし、それらの方がSIZよりずっと安い。
しかし、使いやすさ、カッコよさ、最高級の素材が使われたミニL字ファスナーはほとんどない。コンパクトなボディに「全部入り」を実現しつつ、独特のギミックと上質な素材を堪能できる。満足感のある一品です。